国際シンポジウム2015 はじまりは90s‖東南アジア現代美術をつくる

日本

国際交流基金アジアセンターは、「他人の時間」展の開催を機に、国際シンポジウム2015「はじまりは90s‖東南アジア現代美術をつくる」を開催しました。
欧米におけるアジア地域の美術への関心は、80 年代の日本から始まり、韓国・中国、インドと続き、いま東南アジアへの注目が集まっています。元来、東南アジアと呼ばれる地域は、多種多様な民族、言語、宗教が折り重なって形づくられてきた文化と豊かな資源を有し、植民地支配と戦争の歴史を経て、独立後の国民国家形成の道のりを歩み、90 年代に入ってからの目覚しい経済発展による急激な近代化と21 世紀のグローバル化の波は、社会環境や人々の価値観に大きな変化をもたらしました。
このような文化・社会現象に敏感な東南アジアの作家たちは、真摯に現実を受け止め、社会と関わっていきます。特に90 年代の作家たちの活動はその傾向が強く、日本で紹介された作家と作品は、日本の観客に新鮮な衝撃を与え「アジア美術ブーム」と呼ばれた現象の先駆けを担いました。
本シンポジウムでは、当時を知る関係者や新進の研究者の発表と議論を通じて、90 年代の東南アジアの美術状況を、2015 年の現時点から再検証しました。

日時 2015年5月23日(土曜日)13時から17時
2015年5月24日(日曜日)13時から16時
会場 東京都現代美術館地下2階講堂
料金 無料(定員:200 名)※事前申込制
主催 国際交流基金アジアセンター、東京都現代美術館
言語 日英同時通訳

Day1|5月23日[土曜日]|13時から17時

Session1|13時から14時50分

グローバル化とオルタナティヴ・アートシーンの広がり

冷戦期の国民国家形成の過程を経て、80年代後半からの経済発展を背景に、東南アジア各国の急速な近代化は、ローカルな美術シーンのあり方もまた大きく変えていきました。海外で美術教育を受けた作家、あるいはオーガナイザーとしての才能を発揮し、キュレーションを担う人材が、自国への客観的な視点と美術を通じた提言の可能性を抱えて帰国。自らがオルタナティヴ・スペースをはじめとする小規模ながら機動力の高い共同体を作り、コミュニティや社会に開かれた新たな美術の場を生み出していきます。それは都市部だけでなく、バギオ、バコロド、ジョクジャ、チェンマイなど地方都市でも同時多発的に、アーティスト主導のアート・フェスティバル等があらわれ、既成の組織にないフレキシビリティから、価値観や課題を共有する表現者たちを繋ぐハブとなります。これらは、ローカルからグローバルに広がる、ネットワークに支えられた新たな表現の場を創出し、東南アジアのアートシーンを特徴づけていくことになります。
本セッションでは、タイ、フィリピン、インドネシアで展開された90年代はじめから2000年代にかけての社会政治的な関わりを思考し、コミュニティに向けた美術動向を明らかにし、深く関わってきた3人の発表者に、個々のケーススタディとその社会的影響を語っていただきます。

1.アジア現代美術のネットワークを見直す
クリッティヤー・カーウィーウォン[ジム・トンプソン・アートセンター芸術監督]

2.つくる/変える(=間に合わせのもの)
フローデット・メイ・ダトゥイン[フィリピン大学ディリマン校美術学部教授]

3.ホームメイドな構造と小・中規模な思索
アデ・ダルマワン[ルアンルパ代表]

モデレーター:神谷幸江[広島市現代美術館学芸担当課長]

討論(質疑応答を含む)

Session2|15時から17時

「アジア」の表象‖作家とキュレーターの視点から

マルチ・カルチュラリズムとそれに続くポスト・コロニアリズムの思潮を背景に、アジア域内外で増え続けたアジア関連の展覧会は、徐々にキュレーターの誕生(または「キュレーションの視点」)を誘発し、作家の活動の場も国内やアジア地域のみならず欧米へも広げて、いわゆる文化の触媒としての機能を担いつつ、アジア美術の域外発信に重要な役割を果たしました。90年代の2つの展覧会「Traditions /Tensions」(1996年)、「Cities on the Move」(1997年–)などが特徴的な例となります。
本セッションでは、アジアの域内外で開催されたこれらのアジア美術関連の展覧会を踏まえて、「アジア」という言説の表象のあり方を、作家や、キュレーター/研究者の視点から議論していきます。

1.真実の旅は環ること
ディン・Q・レ[現代美術作家]

2.実践の90年代‖あの時、そして現在
ジョアン・キー[ミシガン大学美術史学部准教授]

モデレーター:ドリュン・チョン[M+チーフ・キュレーター]

討論(質疑応答を含む)

第1日目の全体討論

Day2|5月24日[日曜日]|13時から16時

Session3|13時から16時

公的機関の活動と可視化・言説化された「アジア」

90年代の東南アジアのアートシーンを語るとき、日本やオーストラリア、そしてシンガポールの国公立の美術館や行政機関が果たした役割は、東南アジアの域内交流に少なからぬ影響を与えました。各国の美術の歴史的過程の差異や共通の課題やビジョンをつなぐ実践をとおして、点=ナショナルから「アジア」という面=リージョナルとしてアートシーンを可視化するばかりではなく、言説化する道を開いたからです。2000年代に入ってからは国際展やアートマーケットの台頭、そして美術館のさらなる進化により、観客や消費者などの受容層が拡大し、「公」に期待される役割も変容しつつあります。
本セッションでは、90年代活発になったオーストラリアと日本の東南アジア美術への関心のあり方と、域内におけるシンガポールの活動を、2015年の現時点から検証します。

1.東南アジアを企画する‖シンガポールの制度と実践の備忘録
アフマド・マシャディ[シンガポール国立大学美術館館長]

2.政治的なもの、個人的なもの
1990年代東南アジアとの美術交流におけるオーストラリアの経験
アリソン・キャロル[アジアリンク・アーツ初代所長]

3.文化外交と美術館経営‖幻想の「アジア」を超えて
岸清香[都留文科大学文学部准教授]

モデレーター:帆足亜紀[アート・コーディネーター/横浜トリエンナーレ組織委員会事務局 プロジェクト・マネージャー]

討論(質疑応答を含む)

全体討論とまとめ

「他人の時間|Time of others」展の情報はこちらから

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東京都現代美術館「他人の時間|Time of others」展