日本とミャンマー映画 ――アウンミン

Interview / フェスティバル/トーキョー15

ミャンマーのアーティストはもっと自分の国のことを知る必要があるはず。

The Monkは、地方に住む老僧と見習い僧がストーリーの主人公ですが、都市部と地方の農村社会の格差が重要なテーマともなっています。そこもアウンミンさんの実体験が元になっているわけですね。

アウンミン:まさにその通りです。都市と地方の格差はミャンマーにとっても重要な問題の1つと言えるでしょうね。ただ、私が住んでいたカティアにしても、ヤンゴンから遠く離れた地というわけじゃないんです。いまでは道が通って、車で1時間ぐらいで行けるようになりました。私が住んでいた1990年代は、映画で描いたように川の舟運を使うしかなかったのですが、水位が下がると欠航になってしまうんです。つまり、車で1時間の距離なのに、なかなか辿り着くことのできない場所。カティアにとってのヤンゴンとはそういうところでした。

映画 The Monk のスチル6

The Monk(2014)

映画 The Monk のスチル7

The Monk(2014)

The Monkに登場する地方の若者たちの多くはヤンゴンに憧れていますよね。近いけど遠い、ある種「幻想の都市」のように描かれています。

アウンミン:たしかにThe Monkの登場人物の多くは「ヤンゴン」という都市の存在にとらわれ続けていますよね。そういうミャンマーの若者は実際に多いと思います。ただ、この作品は僧侶の生活にフォーカスを当てようと、僧侶にとっての「地方」と「都市」の違いを描こうと考えていました。托鉢で生活できる地方から飛び出して、ヤンゴンに行った僧侶が、ある種の挫折を経験して地方に戻るまでのストーリーを描きたかったのです。

―古い風習にならった生活を頑固に続けていく老僧と、MP3プレイヤーを宝物にする若い見習い僧の対比も鮮烈に描かれています。社会の変化のなかで、そうしたジェレネーションギャップも重要な問題になってきているのでしょうか。

アウンミン:そうですね。世代差のギャップはたしかに広がっています。この映画でも、やはり老僧と見習い僧の対比は重要なテーマとなっていて、もともと主人公は老僧だったのですが、脚本を発展させていく段階で見習い僧が主人公になっていきました。そのほうが現代のミャンマーを描くには適切だと考えたのです。

映画 The Monk のスチル8

The Monk(2014)

映画 The Monk のスチル9

The Monk(2014)

―僧侶を取り巻く状況は、変化しつつある現代ミャンマーを象徴するものということなんでしょうか?

アウンミン:僧侶をテーマにストーリーを書きはじめた段階では意識していたわけではないんですけどね。当時20代前半の僧侶と親友になったこともあって、彼をモチーフの1つとしたフィクションを書きたかったというのがまずあります。彼はもともと自分の診療所にやってきた患者だったのですが、夜中にラペットゥというお茶の葉の漬け物を食べたり、女性と親しく話したり、厳格な僧侶だったらやらないようなことをやる人でした。彼がそうやって戒律を平気で破ることについては私も心苦しさを感じていたのですが、そこで引き起こされる葛藤というものがこの映画の根底にはありますね。

アウンミン監督の写真

―今回2週間日本に滞在したわけですが、今後、日本での体験をどのように活かしていきたいと思いますか?

アウンミン:ミャンマーに帰ったらやろうと思っていることが1つあるんです。今回、京都の小さな映画館にお邪魔したのですが、そこでは作品を上映するだけではなく、映画に関することも教え、なおかつDVDも販売している。その映画館の方は「映画というのは学校で勉強するものではなくて、映画を観ること自体が勉強になる」ということを言っていて、とてもおもしろいと思いました。ミャンマーでも同じようなことができるんじゃないかと考えていて、帰ったらそういう場所を作りたいと思っています。

―映画に限らず、表現の世界ではアジア間の交流というのが重要になっていると思います。アウンミンさんの意見を聞かせてください。

アウンミン:私も同意します。アジア間の交流は今後さらに必要になっていくでしょう。ただ、日本のアーティストが自分の国のことを表現するとき、日本について深く知らなければ、他国の人に対して本当の魅力を伝えることができないのと同じように、ミャンマーのアーティストはもっと自分の国のことを知る必要があるはずです。アジア間の交流の前提として、それぞれが自分の足元のことを知らなければいけないと私は考えています。