僕にとって絵本を集めるのは、新しいダンスを振り付けたり、レコードを「掘る」のと同じ感覚。核にあるのはヒップホップなんですよね。(CHITO)
―今日の対談場所は、CHITOさんが今年吉祥寺にオープンした絵本専門の古本屋さん「Mein Tent」です。そもそもダンサーであるCHITOさんが、このお店を始めようと思ったキッカケはなんだったんですか?
CHITO:自分でも不思議なんですよ。絵本は子どもの頃にたくさん読んでいたけど、いわゆる「絵本好きの大人」でもないですし。ある日、「そういえば絵本専門の古本屋ってないのかな?」って思いついて、「ひょっとして誰もやってないんじゃない?」って盛り上がったんです。でも、インターネットで「絵本 古本屋」と検索したら、出てくる出てくる……。それで一度挫折しているんですけど(笑)。
CHITOが吉祥寺にオープンした絵本専門の古本屋「Mein Tent」
―いまは調べたらすぐわかっちゃうから、ある意味やりにくいですよね。
CHITO:でも、そのアイデアはずっと気になっていて、ダンサーをやりつつ絵本を買い続けていたら、2年で3、4千冊集まったので、今年2月に店をオープンしました。僕にとってはダンスを踊ることも、この店を開くこともまったく同じで、自分なりのエンターテイメントのつもりなんですよ。
AFRA:そこが面白いよね(笑)。
CHITO:もともとは劇場や舞台が好きで、自分のダンスカンパニーを作りたいというところから始まっているんです。シルク・ドゥ・ソレイユとかディズニーランドも大好きで、遊びに行ってもついついライバル目線で「うわ、くやしい!」「ああ、やられた!」って気持ちになる(笑)。それで、自分が表現できる場所を作りたいと思って、このお店をオープンしました。だからお店は、等身大の舞台作品みたいなもの。本屋だけど幕がついていますし、イベントをやるときも、幕を開けるところから始まるんですよ(笑)。
左から:CHITO、AFRA
―8月にはこのお店で、AFRAさんと「読み聞かせ」イベント「カーテンアケロ!」をされたそうですね。もともとお二人はヒップホップやクラブカルチャーのシーンで出会われたんですか?
AFRA:そうですね、共通の知人が主催するイベントで。CHITOさんは舞台全体をディレクションしていて、その中で僕はヒューマンビートボックスとダンサーのコラボをしました。CHITOさんは、描く世界はメルヘンだけど、生き方がヒップホップ。そのときもストイックな印象で、自分の描く世界に揺るぎない自信があり、子どものダンサーに対しても的確な指示をパシッと出していました。アーティストとしての確固たるヴィジョンがある。人の心に突き刺さる言葉をちゃんと持っている人だなあって。
―8月の「読み聞かせ」イベントはどんな感じだったんですか?
AFRA:僕がヒューマンビートボックスで「読み聞かせ」をやるとしたら、どんな絵本が面白いかな? と考えて、『もこ もこもこ』(作:谷川俊太郎、絵:元永定正)とか『んぐまーま』(作:谷川俊太郎、絵:大竹伸朗)とか、擬音をフィーチャーした絵本が面白そうだなって。で、何冊か選んで、どういう順番でやろうかとか、つかみはこの絵本かなとか、子どもたちが引き込まれるような世界観を作ることを一生懸命考えましたね。
CHITO:素晴らしかったです。AFRAくんには『おならうた』(作:谷川俊太郎、絵:飯野和好)をビートボックスでやってもらいました。おそらくヒップホップ初じゃないですか、おならのビートボックスって(笑)。そうやって二人で構成を相談していたときに思ったのは、DJがレコードをつないだり、舞台でダンスを踊るのと一緒だなってこと。最初はこの曲で行こう、ここで一度落として、最後はまたこれで盛り上げようとか。
AFRA:物語というか、舞台的でもありますしね。あと、絵本の世界ってすごいなと思いました。何でもない日常を取り上げていても、その切り取り方が新鮮で、そういうものの見方、センスは参考にしたいって思いました。ほんとアイデアの宝庫だなあと。
CHITO:ここにある本一冊一冊すべてに物語が詰まっているんですよ。そう考えるとすごいですよね。全てが扉で、どれを開けても面白い世界へ連れて行ってくれる。さらに3世代くらい読み継がれている絵本もあるわけで、もうニーナ・シモンやアレサ・フランクリンのレコードみたいなものなんです(笑)。僕にとって絵本を集めるのは、新しいダンスを振り付けたり、レコードを「掘る」のと同じ感覚。いつだって核にあるのはヒップホップなんですよね。