Visual Documentary Project 2018 上映・トークイベント開催レポート

Report / Visual Documentary Project 2018

映像作家と学者との対話を通して新たなものを目指す

マリオ・ロペズ准教授の写真

マリオ・ロペズ准教授は総評として、「東南アジアは映画、音楽、演劇など、今一つの市場として様々な物を消費しています。先ほどの『ラップタイ』は外来の異なる文化圏で生まれたものが、タイ文化圏の中に入り新しい文化を誕生させているという一例となりますが、そういったものを学者としてみていくことがひとつの宿命だと考えています。何か新しいテーマに着目して研究するときには、まずはフィールドワークを行います。現地に出向き、現地の言語で色々な方にインタビューや調査などを行い、その後収集したデータを日本に持ち帰り、分析したうえで研究の題材や報告書にします。これを繰り返し行いますが、研究に基づく本を出版する場合は10年くらいのサイクルが必要です。政府から助成を受けるなどでもう少し短い場合も、4年で成果物を作成しなければなりません。しかし映像作品については、もっと早いスピード且つリアルタイムで制作され、短くて2~3ヶ月で作品を作り上げることもできます。今日上映した『ザ・ファイター』は、1年のリサーチを経て撮影に入りました。学者と映像作家のスピード感は異なりますが、私たちは同じことをしています。お互いに同じものを見ながら、どのように新たな視点で見直すことができるのか、映像作家と学者との対話を通して新たなものを目指すというのがこのプロジェクトの狙いです。このプロジェクトで私は、「架け橋」、「対話」という言葉を使っていますが、それをもう一歩踏み出して彼らと一緒に何かをやりたいと考えています。このプロジェクトを長きに渡り続けてこられて大変感謝しています。石坂健治さんからは、10年間つづければ花が咲きますと言われています。今回は7回目であと3年かかりますけれども、引き続き、このプロジェクトを継続したいと思っています。」と述べた。

上映会の後半では、本選考委員の一人で、日本映画大学教授/東京国際映画祭「アジアの未来」部門プログラミング・ディレクターの石坂健治氏、山形国際ドキュメンタリー映画祭・東京事務局の若井真木子氏、そして各作品の監督と関係者が舞台に登壇し、総評および監督や関係者への質疑応答が行われた。

若井真木子氏の写真
写真:佐藤 基

若井氏は「京都では地域研究の方々のとてもマニアックでおもしろい視点が出ていて、京都ならではと感じているのですが、逆に素朴な疑問が出しにくいのかなとも思いつつ、私は選考にもかかわっていないので、一人の観客代表として素朴な疑問などを聞いてみたいと思います。石坂さんは選考にも関わっていらしたので、『東南アジアのポピュラーカルチャー』と選考の背景など、最後にお聞きしたいです。」と話し、監督関係者へ幾つかの質問を投げかけた後、石坂氏の総評に繋いだ。

石坂健治氏の写真
写真:佐藤 基

石坂氏は「同じ研究者でも地域研究者の方々のアプローチと、映画芸術のある一つの分野の研究のアプローチの仕方は非常に異なっていて毎回その違いに面白味を感じています。映画研究者としての視点から見ると、例えば『ザ・ファイター』ではドローンを使用しているな、とか。実際今回は応募作品に非常にドローンが多かったです。また作品の構成はどうなっているか。『コスプレイヤー』では途中サバイバルゲームのシーンは一瞬ドラマかと錯覚しますよね。今年の映画で言うと『カメラを止めるな』を想起させるような手法でした。毎回審査に関わっていますが、カメラの配置、照明の当て方、編集の仕方などにも注目したりしています。東京国際映画祭では、国際交流基金アジアセンターと共催で実施しているCROSSCUT ASIA部門に携わっていますが、今年は東南アジア映画の中の音楽をクロースアップした作品を上映しました。今日のドキュメンタリーとも一致するところが多く、一例をあげると、フィリピンの作品『リスペクト』と『ラップタイ』はラップ合戦で重なります。背後にある社会の政情不安や経済の問題など、様々な事柄に異議を申し立てるというところがラップというジャンルは非常にやりやすいのかなと思います。一つはタガログ語のラップで今回はタイ語のラップですけれども、いずれも見事に表現されていて、私の頭の中で繋がっています。また映画の側から見たときに、今回作品の質が非常に上がっているように感じました。今回入選者の中には、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督と仕事をされているタイの監督のような方もいますし、また昨年国際交流基金アジアセンターが実施した「…and Action! Asia #04:映画・映像専攻学生交流プログラム」に参加した現役の学生もいます。何が言いたいかといいますと、デジタル時代はフィルムの時代と違って作家が成長し世界に出ていくプロセスが短く速くなってきています。制作者の皆さんはプロの一歩手前かプロになったところぐらいかと思いますが、おそらく次の長編でポンとカンヌに出ていくなんてこともあるんじゃないかなと、それぞれを観てそういう感想を持ちました。最後に要望を言わせていただくと、短編なので仕方がないとしても『ラップタイ』も『ザ・ファイター』もクライマックスの曲や競技の戦いなどがかなり編集で短くなっていて、もう少し観たかったな。長編化する時に期待したいと思います。」とまとめた。

最後には観客との活発な質疑応答が行われ、終始盛り上がりを見せたイベントとなった。

作品解説登壇者の集合写真
写真:佐藤 基