郷土芸能がもたらす未来への可能性 「三陸国際芸術祭&Sanriku-Asian Network Project」報告会レポート

Report / 三陸国際芸術祭&SAN Pro報告会

報告会の様子の写真

「人間ってすごいな!」という芸術祭

三部構成で展開されたこの日の報告会。まず、第一部では、プロデューサーの佐東範一さんを中心に、サンプロ・サンフェスの報告が行われました。

サンフェスが開始されたのは2014年。それまで、佐東さんは、NPO法人ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク(JCDN)の代表として、仮設住宅や避難所をまわって、プロのダンサーが被災者と一緒に体操やマッサージをする「からだほぐし」という活動で被災地の支援を行ってきました。しかし、この活動を行いながら、佐東さんはあるジレンマに悩みます。

「支援をしに行っているにも関わらず、自分たちが中心になって被災者にお付き合いをしてもらっているという感じがしたんです。どうしたら、地元の人が中心になることができるのか? 地元の人々の力を活かすことはできないのか? その中で、三陸にある郷土芸能をダンサーが習いに行く『習いに行くぜ!』という活動を企画しました」

震災後、東北の各地には数々の郷土芸能が残されていることに注目が集まりました。この資産を活用し、地元の人々を主役にしながら、ダンサーたちが関わっていけないか……。「習いに行くぜ!」という活動は、被災者=弱者という固定観念を覆し、被災者がいきいきと活動をできる場として受け入れられます。そして、ここから、郷土芸能を中心とした芸能祭の構想が芽生えたのです。

「有名なグループを呼ぶのではなく、地元の郷土芸能を中心にして、郷土芸能に携わっていない人も参加することができる。そんな地元住民が主役の芸術祭を開催したいと思いました。その意味で、サブタイトルには『ヒューマンセレブレーション』という言葉を使っています。『人間ってすごいな!』と思えるような芸術祭をつくっていきたいんです」

そんな、佐東さんの思いが結実し、第2回目のサンフェスでは、インドネシア、カンボジア、韓国などからも芸能団を迎えて実演が行われたほか、地元の住民を巻き込んだコミュニティダンス、そして臼澤鹿子踊の「習いに行くぜ」といった多様なプログラムが展開され、大盛況の内に幕を閉じました。

第2回サンフェスの写真1

第2回サンフェスの写真2

また、2015年から開始された「サンプロ」では、インドネシアの仮面職人を招聘し、ワークショップを開催したり、三陸と同じく津波被害に襲われたインドネシア・スマトラ島のパンダアチェからやってきた芸能団が小学校でアウトリーチ活動を展開します。その一方で、臼澤鹿子踊のメンバーを中心に、郷土芸能の宝庫として知られるバリ島や、インドネシアのパンダアチェを訪問しました。現地でも鹿子踊が上演され、これまで見たことのない日本の芸能は、インドネシアの子どもたちの注目の的になったそうです。さらに、芸能の発表だけでなく、現地の舞踊団のスタジオ見学や、津波博物館への訪問などを行いながら、芸能が継承される土地への理解を深めていきました。臼澤鹿子踊の東梅秀夫さんは、当事者としてサンプロで行われた交流をこう振り返ります。

「我々のような芸能団が外国に行くこと自体も珍しいですが、サンフェスで出会ったパンダアチェの人々と再会を喜べたことに驚きました。郷土芸能を通じて外国の人々と交流ができる。郷土芸能を通じて、大きな縁が生まれたんです」

郷土芸能は、地域に根ざしたローカルなものと思われてます。しかし、サンプロ・サンフェスは、これをグローバルな視点で捉えなおすことで、アジアとの芸能との交流を実現させました。郷土芸能は海を渡り、人々を繋いでいったのです。

さらに、第二部では、舞踊評論家の稲田奈緒美さんの解説とともに、臼澤鹿子踊の実演が行われました。今回は、保存会のメンバーだけではなく、「習いに行くぜ!」で合宿したプロのダンサーや音楽家たち5人が参加した特別バージョン。「かんながら」と呼ばれる髪を激しく振り乱す勇壮な芸能は、普段は「けやきホール」として使用されている国際交流基金のスペースを祭りの会場に変身させます。

サンプロの写真

これまで、地域に密着しながら培われてきたからこそ、外の世界には閉ざされてきた芸能の世界。しかし、「習いに行くぜ」でアーティストが芸能の世界に入ることで、地域の芸能にも大きな変化をもたらしました。稲田さんは、実演された臼澤鹿子踊を見て、こんな感想を語ります。

「最初は外の人間が入ってどうなるかと不安でした。現代の人間に芸能の腰の低い動きはできるのか、西洋音楽に慣れた耳で、芸能の音楽ができるのか……。でもそんなことは全然なかった。むしろ、芸能に携わる人々もこれまで見よう見まねで学んでいた芸能をいろはから学ぶことで、芸能の本質に自覚的になる、高齢化が進み高くなった腰を若い人がぐっと低くするといった変化が見られているんです。そんな相思相愛の関係ができているのではないでしょうか」

アーティストにとっては、日本人としてのルーツとなる芸能に触れること。芸能団にとっては、外部の人々に踊りを教えることによって芸能の本質を自覚すること。そんな双方向の関係が作られた「習いに行くぜ!」は、サンフェス・サンプロのありようを象徴するプログラムなのです。