シンポジウム・参考上映会「格差を包む信仰~映画が描く東南アジアの赦しと救済」開催レポート

グブラ:(C) Nusanbakti Corporation
アット・ザ・ホライズン:(C) Lao New Wave Cinema Productions

アジア映画を題材に、より深く東南アジアを紹介する「混成アジア映画研究会×国際交流基金Presents シンポジウム・参考上映会」。東南アジア文化や事象をテーマとした映画を紹介し、地域研究の観点から解説を行っています。
2017年に第1回、2018年に第2回を開催し、第3回目となる今回は、「格差を包む信仰~映画が描く東南アジアの赦しと救済」をテーマに、2019年11月15日に開催しました。
民族や言語、経済状況などの違いによって生まれている格差や見過ごされてしまっている困難な状況、そして、それらを乗り越えていく方法について探っていきました。

2019年に没後10年を迎えたマレーシアのヤスミン・アフマド監督の作品『グブラ』、そして検閲の厳しいラオスにおいて、グローバルな視点に即した映画作りに挑戦しているアニサイ・ケオラ監督のデビュー作『アット・ザ・ホライズン』を地域研究者によるオリジナル字幕でご覧いただき、それぞれの映画で描かれている各国の歴史的・文化的背景や現状などをマレーシア、ラオスを対象とする地域研究者から解説いただいたほか、パネルディスカッション、Q&Aセッションなども実施しました。

それぞれの国が抱える人々の「違い」や「格差」と、互いを理解するための努力

はじめに、シンポジウムに先駆けて上映を行ったのはマレーシアのヤスミン・アフマド監督の作品『グブラ』。マレーシアの地方都市で生活する民族や社会的立場の異なる人々が、それぞれに暮らす情景や違いを超えて手を差し伸べる姿とともに、ままならない現実なども平行して描かれた作品です。

映画のスチル画像1
映画のスチル画像2

『グブラ』マレーシア、2005年、113分、マレー語・英語・広東語(日本語・英語字幕)
監督:ヤスミン・アフマド (c)Nusanbakti Corporation

続いてのシンポジウムでは、それぞれの映画に描かれた地域の背景を考えながら、互いを理解して壁を乗り越えていく方法について考えていきました。

シンポジウムでの様子の写真
山本博之准教授

山本博之京都大学東南アジア地域研究研究所准教授からは、多民族国家であるマレーシアのそれぞれの民族の生活と信仰の姿、そこで語られる罰の在り方などについての紹介、そういった社会的背景が参考上映作品『グブラ』映画でどのように描かれているかについて解説いただきました。

シンポジウムでの様子の写真
橋本彩准教授

続いて橋本彩東京造形大学准教授からは、ラオスにおける映画を取り巻く状況と、そのなかで参考上映作品『アット・ザ・ホライズン』が制作された意義のほか、映画で描かれた物語の理解を深めるラオスの仏教的価値観などを紹介いただきました。

シンポジウムでの様子
写真左から 西芳実准教授、山本博之准教授、橋本彩准教授

パネルディスカッション、Q&Aセッションでは、西芳実京都大学東南アジア地域研究研究所准教授をモデレーターに、それぞれの地域に暮らす民族と置かれている立場についてや、信仰によって異なる出来事への理解の違い、信仰が人々の救いとなる一面を持ちながら、反対に本質的な問題が隠れやすくなる状況をつくってしまっていることなどについて議論が繰り広げられました。

プログラムの最後では、シンポジウムで語られたラオスにおける価値観などをふまえながら、経済成長が著しいラオスの格差問題を、二つの家族のあり様から描いた『アット・ザ・ホライズン』をご覧いただきました。

映画のスチル画像1
映画のスチル画像2

『アット・ザ・ホライズン』ラオス、2012年、101分、ラオス語、日本語・英語字幕
監督:アニサイ・ケオラ (c)Lao New Wave Cinema Productions

長時間のイベントとなりましたが、注目が高まっている監督たちの作品とともに語られるシンポジウムとあって、当日は多くの方にご来場いただきました。Q&Aセッションでも多くのご質問をいただいたほか、「多文化が共存する社会のざっくばらんな部分と複雑さを感じた。」「それぞれが日々苦しんでいても全く苦しみのもとは異なっており、考えさせられた。」などのご感想をいただきました。

開催に際しご協力いただいた方々、ご来場いただいた皆さま、誠にありがとうございました。

イベント情報
シンポジウム・上映会「格差を包む信仰 映画が描く東南アジアの赦しと救済」