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活況するドキュメンタリー映画シーン。注目の若手アジア作家たち

Report / 山形国際ドキュメンタリー映画祭

ドキュメンタリー映画の劇場公開本数が増えている

近年、日本国内でドキュメンタリー映画を目にする機会が多くなっている。ジャンル別の統計データは資料がないため正確な本数は不明だが、年間で公開される映画の総数は年々増加しており(日本映画製作者連盟の統計によれば2001年の644本から2015年は1136本と15年間でほぼ倍増)、ドキュメンタリー映画もそれに比例していると考えてよいだろう。加えてデジタル機材の普及により、劇映画に比べて低予算・少人数で制作できることや、対象や題材の独自性がアピールできるため、いわゆるミニシアターなどの映画ファン以外の、別の層の動員が見込めるといった興行面での理由も増加の原因として考えられるだろう。

映画のスチル画像

山形国際ドキュメンタリー映画祭2015 上映作品 『ストーム・チルドレン 第一章』(2014)

映画のスチル画像

山形国際ドキュメンタリー映画祭2015 上映作品 『瞬く光の中で』(2013)

 「事実は小説よりも奇なり」というように、撮影中の予期しない出来事やカメラを向けた人からふと口をついて出る驚くべき真実など、フィクションでは決して書けない筋書きは、ドキュメンタリーならではの醍醐味だ。また、国内では、特に東日本大震災後を機に高まったこれまでの社会のあり方への疑問やマスメディアへの不信から、普段のニュースでは情報としてしか伝えられない社会の動きや問題に焦点を当てた作品が増えるなど、インディペンデントで自由度のあるメディアとして、映画の力が見直されているとも言えるだろう。対象を追いながら監督自身も変化していくカメラの背後の姿が垣間見えるのもドキュメンタリー作品の大きな特徴だ。

世界的な話題作、映画作家を輩出する山形国際ドキュメンタリー映画祭

そうしたドキュメンタリー映画のなかでも、普段映画館で見ることができない未配給の作品、また「ドキュメンタリー」という枠にとらわれない自由な発想による実験的な作品を見ることができる機会として、1989年から隔年で開催されている山形国際ドキュメンタリー映画祭(以下「YIDFF」)がある。昨年10月に開催された第14回では、長編作品を公募するインターナショナル・コンペティション部門に世界各国から過去最高となる1196本の応募があり、8日間の期間中に上映された作品総数は165本、入場者数は24290人に上る活況を呈した。

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山形国際ドキュメンタリー映画祭2015 ポスタービジュアル

 YIDFFのインターナショナル・コンペティションでの受賞がきっかけで、世界的な評価を受けたり、一般劇場公開が決まった作品も多い。なかでも、2001年に『真昼の不思議な物体』で優秀賞を受賞したタイのアピチャッポン・ウィーラセタクンは、2010年には『ブンミおじさんの森』でカンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)を受賞。ドキュメンタリー、フィクション、アートと、ジャンルを横断してさまざまなスタイルで作品を制作し続けている作家の一人だ。近年では、2013年に山形市長賞(最優秀賞)を受賞したジョシュア・オッペンハイマーの『アクト・オブ・キリング』が、1960年代にインドネシアで起きた大虐殺の加害者たちがカメラの前で過去の行ないを再演させるという前代未聞の手法をとり、翌年の劇場公開でも大きな話題となった。

その一方で、YIDFFではアジアの新しい才能を応援する、もう1つのコンペティション部門「アジア千波万波」があることも大きな特徴だ。映画祭は、作品を出品するアジアの映画作家たちが世界と出会い交流を深める絶好の機会にもなっており、期間中にはシンポジウムや討論会も多数開催されている。昨年は、国際交流基金アジアセンターとの共催で「アジア・フィルム・コミュニティ きらめく星座群」と題したプログラムが実施され、その中の1つとして、シンガポール国際映画祭のディレクターでもあるシンガポールの映画批評家、フィリップ・チアをモデレーターに、「アジア千波万波」に出品したシンガポール、ミャンマー、フィリピン出身の4人の若手監督たちによって、「東南アジアから世界へ―映画づくりの現在」をテーマにしたトークセッションが行われた。