日本とミャンマー映画 ――アウンミン

Interview / フェスティバル/トーキョー15

以前のミャンマーだったら、路上で堂々とカメラを構えることもできなかった。

―いきなりですが、先日のミャンマー総選挙では、アウンサンスーチー(非暴力民主化運動の指導者。1991年ノーベル平和賞受賞)率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝し、軍の影響を受けた政府による長年の支配が終わることになりました。この結果についてどう思われましたか。

アウンミン:私はもともとNLDを応援していましたし、今回の選挙に向けて協力もしていました。本当に勝てるのかどうか心配していたのですが、期待以上の勝利を収めて驚いています。投票日の夜はみんなで喜びをわかち合いましたよ(笑)。

インタビュー中の写真1

アウンミン

―おめでとうございます。この結果は、ミャンマーのアーティストたちにどのような影響を与えると思われますか?

アウンミン:まずは政権交代がスムーズに進むことが重要ですね。そのうえで、過去50年間に私たちが自由にできなかったあらゆることに変化が訪れるのではないかと願っています。芸術はもちろん、教育や医療の分野でも変化が起きるでしょうね。

―映画業界に関してはいかがですか。

アウンミン:以前のミャンマーだったら路上で堂々とカメラを構えることもできなかったですし、撮影のために少数民族が住むエリアに行くこともできなかったんです。また、自分が撮った映画を上映しようにも、検閲を受けたり、いろんな危険がつきまとっていた。今後はそうした危険性がなくなっていくんじゃないかと願っています。

映画 The Monk のスチル1

The Monk(監督:ティーモーナイン 脚本:アウンミン) 2014年

―ミャンマーの映画シーンについては、後ほどあらためてお聞きしたいのですが、まずは今回の日本滞在についてお話を聞かせてください。国際交流基金アジアセンターが実施する「アジア・文化人招へいプログラム」を通じてトータルで14日間滞在されたそうですね。

アウンミン:東京と京都で、映画と現代アートの関係者に会いました。深田晃司さんや、東京藝術大学大学院で教鞭をとる諏訪敦彦さんなど映画監督の方ともお会いしましたし、脚本家の金子成人さんにもお話をお聞きしました。諏訪さんは、役者には脚本にとらわれることなく自由に演じさせるそうですが、そうした彼のスタイルからは学ぶべきものが多いように感じました。

―たしかに諏訪監督の作品と、今回東京で上映会がおこなわれたアウンミンさんが脚本を手がけた映画The Monkは、役者の自律性に委ねた演出方法など、共通点もありますよね。

アウンミン:私もそう思います。The Monkは、撮影前に脚本を完成させていたのですが、いざ撮影となると、脚本どおりにはいきませんでした。なにせ役者たちの多くは一度も演技をしたことのない村人だったので、私は現場で脚本を変更し、台詞を減らし、役者に委ねるパートを増やすことにしました。諏訪監督のスタイルや考えは長年の経験に基づいたものだと思いますが、The Monkでは仕方なくそういった制作方法を取った。ただ、結果的にそうした制作方法だったからこそ、カメラに収めることのできたシーンもあるんじゃないかと思いますね。

映画 The Monk のスチル2

The Monk(2014)

―そうやって日本の映画関係者と会うなかで、ミャンマーの映画界との違いを実感することはありましたか。

アウンミン:やっぱり、だいぶ違いますよね。今回は撮影現場にお邪魔する機会にも恵まれたのですが、システマティックな撮影の進め方や、演技などは、私がこれまで見てきたヨーロッパのやり方に近いと感じました。ミャンマーではだいぶ違うんです。脚本を完成させないまま撮影に入ったり、役者がまったく脚本を読まないまま現場に入ってきたり、役者が監督に指示を出しはじめたり(笑)。決してシステマティックとはいえない撮影現場だと思いますよ。たとえば、家族のあり方や親と子どもの関係をテーマに映画を撮ることはミャンマーでもできると思いますが、そういった表面的な記号の奥にさまざまなレイヤーが隠された小津安二郎監督のような芸術的作品は、まだまだミャンマーでは生まれていないと思いますね。日本の映画界から学ぶべきものは多いと思います。