アジアと欧米のミュージックコミュニティの関係を再定義すること
パトリック:グローバルなスケールで、というお話がありましたが、K-POPや88risingのようなシーンも含めて、この10年で「アジアン・ミュージック」の注目度が欧米で高まっているように感じます。一方で、アジアのアーティストは自国の現状に目を向けるよりは、欧米進出を目指す傾向にありますね。そういったスタンスが今後どのように変わっていくと思いますか?また今後、どのようにしてコミュニティの発展と視点の変化を推し進めようと考えていますか?
リスキー:台湾で開催されたLUCfestというミュージックカンファレンス・フェスティバルで座談会に参加したんですが、彼らは欧米で成功したアーティストを起用して業界を盛り上げようという発想を持っていました。LUCfestには大勢のフェスの主催者が参加するんですが、彼らはアジアのフェスティバルでアーティストのツアー公演を行おうということを話していました。具体的な部分は把握していないのですが、単純に露出を増やすことで、欧米からの注目を高めようとしているわけです。
similarobjects:ホットな音楽はアジアにある、とアジアに視線が集まっているのは僕も実感しています。海外にいるときに音楽を聴いていても、ヨーロッパや他の西洋諸国のアーティストが、アジア的な音階や、アジアの楽器の要素などを参照していて、シンセサイザーといった楽器にもそれが見て取れます。さらにそうした影響で個人的に面白いと思うことは、フィリピンの中で、フィリピン的要素や僕たちが普通にやっていることが、欧米の人々にサンプリングされていると耳にすることです。欧米はアジアを見て、アジアは欧米を見ているような感覚に無意識のうちになったりします。
それで今後どうなっていくかっていうと、そうですね、僕はマニラで教鞭もとっていて、学生には、今この場所で起きていることに着目するように常に言っています。でもそれは、人々の中に残っている植民地主義の遺産を解こうという試みだったりもします。今の人は外国のものを何でももてはやします。僕はいつも、自分を過小評価するなと学生たちに言っています。引き寄せの法則みたいなもので、自分を卑下した瞬間、自分を劣った存在にしてしまうことになる。でも行動すれば、何か大きな存在に立ち向かうんだという心理が生まれて、同じようなエネルギーを引き寄せることになる。
最近はアジアの実験的なエレクトロニックミュージックの音楽家たちも勢いを増しています。僕も海外に行けば、向こうの人にとってまったくエキゾチックな場所から来た人間として受け入れられる傾向にあります。ですので、あとは従来のやり方や考え方を変えて、ライブや面白いプロジェクトをどんどん実践して、さらなる創造の可能性を提示していく。そしてそのためには、アジアを起点とする必要があると思います。外からの押しつけではできないことだからです。だからこそ、Bordering Practiceのようなプロジェクトはマニラ、ジャカルタ、日本の人たちの関心をさらに高めるという点で、間違いなくプラスになるでしょう。僕も、海外に出るたびに、どれだけ素晴らしい音楽シーンがそこかしこにあふれているかを話しています。もっといろいろな世界があることを伝えていきたいと思っています。
tomad: 僕は、このプロジェクトを通じて、たくさんのアジアのアーティストと交流することができて、先ほども言ったように、この経験が自分を取り巻く東京の音楽シーンを振り返るきっかけになりました。アジアのミュージックコミュニティの将来性が見えてきて、各都市に独自のシーンが形成されているので、何かのタイミングで一緒に活動できないかと考えています。それは、アジア人だからお互い一緒に何かやらなきゃいけないとか、「アジア対西洋」とか、一致団結しようということではありません。僕のまわりには、僕を含め、ヨーロッパのアーティストとのつながりを持っているアーティストが多いのですが、それは何か惹かれるものがあるからです。誰かと何かを作り上げるために協働するというのは素晴らしいことですし、地理的な身近さにとらわれすぎるのは良くないと思っています。でも、今後のコラボレーションの選択肢を増やすという意味で、お互いの動向を意識しながら理解を深め合っていくことはとても重要だと思っています。
パトリック:皆さんにとって、真の「ボーダーレス」なアジアのエレクトロニックミュージックコミュニティとはどんなものか、最後に教えてください。
similarobjects:僕は「アジアのエレクトロニックミュージック」を独立したものだとは考えていません。先ほど話していたように、地理的な条件にとらわれず、優れた音楽のひとつだと捉えること。それから、地域ごとの音楽に対して優劣をつけないことだと思います。
tomad:僕は2つの視点があると思っています。アーティストの視点から見ると、今回の滞在制作は同じ場所で協働してアイディアを共有しながら、お互いを高め合う機会となりました。これは今後も続けていけると思います。もうひとつ重要なのは、音楽を作った後に、できるだけ多くのリスナーに届けたいという想いがあるんですね。でも、東京でも他のアジアの都市でも、自分たちの国以外の新しい音楽に出会う機会があまりない。なので、より多くのアジアの音楽をリスナーに紹介できるプラットフォームのようなものを作りたいなと考えています。マーケティングとか、PRの観点ですね。次のレベルに押し上げていくには必要なことだと思います。
【2019年8月25日、FabCafe MTRL にて】
[関連情報]
「Bordering Practice」と「Imaginary Line」――交錯するアジアのエレクトロニックミュージックシーン
インタビュアー:パトリック・セントミッシェル(音楽ジャーナリスト)[アメリカ/日本]
東京を拠点にライターとして活動。日本の音楽やポップカルチャー、インターネットカルチャーなどに注目し、「The Japan Times」や「The Atlantic」、「Pitchfork」ほか多数の国内外のメディアに寄稿している。主要な著書に『33 1/3 Japan series: Perfume's GAME』(Bloomsbury Academic, 2018)がある。
https://makebelievemelodies.com
編集:廣田ふみ、鹿島萌子(国際交流基金アジアセンター)
撮影:稲垣謙一
翻訳:ペンギン翻訳(加藤久美子、Carole Sugiyama)