創作に、ダンサーの個性を反映させる理由
スズキ:『クレヨンしんちゃん』だって、別に「いでよ魔神!」と台詞で魔神を呼び出してもいいわけじゃないですか。でも、そこにダンスで動きを入れるのが僕は好きなんですよね。動きそのものには意味はないけどそうすることには意味がある、というところが。
だからNikiiとのリハーサルでも「今のシーンでなぜ人物たちは踊り出すのか」とか「あのダンスは、演出の中でどういう意味を持つのか」という話をよくします。ダンスがただのダンスから、演出の中でどんな意味を帯びるのか。そこを議論するのがとても楽しいですね。
Nikii:しかも拓朗とは、感じたり考えたりすることが似ているんです。初対面のときから「なんか自分と似ているな。同じ種族の人だな」と思いました。服装もちょっと似ているし(笑)、絶対楽しくできそうだなと。
スズキ:だから、ことさら話をしなくてもお互いの考えていることがわかる。Nikiiは演出の進め方が面白いから彼が言ったこと、言わなかったことについて、その理由を勝手に考えるのが面白いんですよ。
Nikii:そうやって拓朗は考えてくれて、僕のテーマから外れることなくアドバイスをくれるんです。クリエイションに携わっていると、人は自分自身の考えを入れたくなることもあるし、それでうまくいかなくなることもありますよね。でも、拓朗はそうじゃない。
スズキ:それは、僕が「Yes, and~」という言い方が好きだからかもしれない。Nikiiがやりたいことはわかるし、100パーセント面白いと思っているけど、ただうなずいてるだけではいる意味がないですよね(笑)。だから「これを付け加えるといいんじゃない?」と提案する役割でいようと思っています。
Nikii:僕はダンスの大会で審査員を務めることも多いんですが、よく出場者に「僕のダンスはどうでしたか」と聞かれるんです。でもダメ出しはしません。ダンスに間違いはないし、今の彼らをよりよくするために審査しているから。そういう部分でも僕と拓朗は似ていますね。
スズキ:自分のしたいことがわからない人には、「なにがしたいの?」と問いかけることはありますけどね。でもNikiiはやりたいことがはっきりしているので、「こうしたらより面白くなるのでは?」と提案できるんですよ。
Nikii:でも、最初にこのオファーをもらったときは、5人のダンサーで30分の作品を創ることに対してイメージが湧きませんでした。僕自身、所属していたスタジオとの契約が切れる過渡期でしたし……。でも、自分にとってこれが乗り越えなくてはいけない壁なんだと思って引き受けました。
スズキ:でも、Nikiiは最初のミーティングから、やろうとしていることはまったくぶれていない。ずっと同じところを目指しているよね。
Nikii:それはいいことですか?
スズキ:もちろん。
Nikii:よかった(笑)。今回の『Inception』に参加する5人のダンサーも人生の目標はそれぞれだと思うので、そこを表現に反映させてほしいんですよね。5人とも観客に自分を覚えて帰ってほしいだろうけど、同じような人……たとえばマイケル・ジャクソンが5人いたって、つまらないじゃないですか(笑)。だからダンサー1人ひとりに自分自身のダンスを考えてもらって、それを見せたい。
スズキ:リハーサルを重ねるうちに僕も、彼がダンサー個人をフィーチャーしたいことがわかってきました。5人のダンサーをただ一つにまとめるのではなく、それぞれの個性を大きく展開した上でどうつなぐか、という方向のリハーサルになっています。
もちろん5人はダンス好きですが、彼らの人生にはダンス以外の要素もあるわけです。Nikiiはその部分が生み出す5人の個性をもっと表出させたいんですよね。そして、それはダンスファン以外の人とこの作品をつなぐポイントになり得ると思う。すごい技を繰り出すダンサーたちのパーソナルな部分が見えたら、親近感が生まれるし一体感も感じられるでしょうから。
Nikii:そう。今はまだステージに立つ人と観ている人の間に壁があるんですよ。その壁を崩したい。
スズキ:日本はとくにその壁が厚いから…(苦笑)。
Nikii:2015年に初めて日本に来たときは、劇場の雰囲気がすごく怖かったです(苦笑)。その壁にヒビを入れようと一生懸命やったら、思っていた以上に観客が応えてくれたのでよかったですけど。
小杉:その点、『Inception』という作品は、ダンサーが個人として観客と向き合うことで、壁をなくしている印象がありました。
スズキ:それはNikiiも意識していると思います。その場にいる人を大事にするというか。
Nikii:だから、5人のダンサーたちが表現する目標や幸せ……それらを通じて「観ているあなたの幸せはなんですか? やりたいことはなんですか?」と問いかけることができたらいいですね。
小杉:スズキさんはこのプロジェクトに関連して、2015年のShibuya StreetDance Week東京公演で『A Frame』を演出されています。当時の経験も含め、ダンス・ダンス・アジアというプロジェクトに対してなにをお感じになりますか。
スズキ:『A Frame』はタイトルが象徴的でしたけど、枠に囚われるか囚われないか、そこから出るのか出ないかというテーマがあったんですね。ただ、逆説的に言うとどんな国で生きようが、ダンスをやっていようがいまいが、実はみんな日常では同じようなことで悩んでいたりする。変に考えなくてもそこはつながっていると思うんです。
だから「タイではこう、日本ではこう」ということを見せるより、個人の感覚は国境で分断されないことを提示するのが、こうした国際交流企画の重要性なのかなと思っています。今回の『Inception』も、観客がこの30分の中で個人的な感覚として、面白いと思うことをいくつ見つけてもらえるかが重要になるはず。
Nikii:あと、僕はリラックスして仕事をすることも大事だと思うんです。そこから生まれてくるものはとても多いですから。30分の作品を創ってほしいと言われて最初はすごく悩みましたが、リラックスできる環境の中でリハーサルを進めるうちに、30分では時間が足りないくらいのアイデアが生まれました。「次は1時間半で」と言われたらまた悩むんでしょうけど(笑)。
スズキ:(笑)。カンパニーの空気って観客にも伝わると思うんですよ。仲の悪い人たちが舞台上にいるとよくない雰囲気が伝わってくる。だから信頼関係の有無はすごく重要で。僕らの中でコミュニケーションが成立していないと観客にもわかってしまうんですよね。
Nikii:本当にそうです。たとえば今回、作品の中である小道具を使うのを怖がるダンサーがいて、最初はうまくできなかった。でも、しっかりコミュニケーションを取ったら、急に問題なくできるようになりましたから。
小杉:それでは最後に、ダンス・ダンス・アジア東京公演2019を楽しみにされている方々へメッセージをいただけますか。
Nikii:まずは楽しんでもらいたいです。そして先ほどもお伝えした通り、みなさんになにかを考えてもらえるような作品にできたらいいなと思います。ぜひ楽しみにしてほしいです。
スズキ:個人的には今回、ダンサーとしての参加ではないのでその分、なにかをできるようになりたいですね。劇中にある楽器が登場するんですが、それを演奏できるようになるのが個人的な目標かな(笑)。
それと同じように、ご覧になる方にも「自分もなにかをやってみたい」と思っていただけたらうれしいですね。それが僕らのテーマの一つでもありますので。この作品のダンサーに日本に来て七味唐辛子を大好きになった人がいますが(笑)、そういうことでもいいので、この作品をご覧になった方には、なにか「お土産」を持ち帰っていただければと思います。
【2019年4月26日、都内スタジオにて】
関連情報
DANCE DANCE ASIA―Crossing the Movements 公式Webサイト
インタビュアー:小杉 厚
ライター、編集者。舞台の公演パンフレットを中心に取材・編集に携わっている。 ダンス・ダンス・アジアでは、2016年よりインタビュー取材、公演パンフレット等広報物の編集を担当。
インタビュー撮影:引地信彦