トリ・リスマハリニ――スラバヤを、住民にとって快適な我が家に

Presentation / Asia Hundreds


ASIA HUNDREDS(アジア・ハンドレッズ)」は、国際交流基金アジアセンターの文化事業に参画するアーティストなどのプロフェッショナルを、インタビューや講演会を通して紹介するシリーズです。 文化・芸術のキーパーソンたちのことばを日英両言語で発信し、アジアの「いま」をアーカイブすることで、アジア域内における文化交流の更なる活性化を目指しています。

日常生活の質向上

こんにちは。本日は、スラバヤ市における都市開発の取り組みと、住民の幸福を実現するために私たちが行っていることをみなさんにご紹介したいと思います。

スラバヤは、首都ジャカルタに次ぐインドネシアで第2の大都市です。スラバヤ全域の60%程度がカンポン*1 呼ばれる都市内集落で占められており、かつてカンポンは、教育レベルがやや低く犯罪者が住み着くスラムとして認識されていました。

*1 マレー語圏の伝統的な村落や住宅群。カンポンという用語は、都市スラム地域や、市町村間の閉鎖的な発展を意味する場合もある。

私が市長として手始めに取り組んだのは、カンポンの住民を教育し、自信を与えることで、基礎的な環境管理に参画できるようにすることでした。地域の公衆衛生システムとインフラを改善することが、環境全体の改善につながると考えたのです。

日本の北九州市の協力のもと、カンポン内の固形・液状廃棄物の自己処理について指導することから始めました。住民は、有機廃棄物から作る堆肥を自分たちの生産する作物に使用しており、このような試みは、長期的には埋め立てに使うゴミの減量につながっていくものと思います。カンポンはスラバヤの都市開発に貢献し、多くのプログラムを推進しているのです。

ICF2017でのトリ・リスマハリニ市長の講演の様子 スラバヤ市、都市開発の取り組みの写真

カンポンの日常生活の質改善に取り組んだ後は、図書館をつくり、教育の質向上に取り組みました。現在スラバヤ中に、約1500の公立図書館があります。

大規模な人口に比べて警察官の数が少なすぎることがわかり、居住地域の治安活動に参加するよう住民に促しました。特定の喫煙エリアを設けることでカンポン全体を禁煙とし、薬物使用を防止するための反ドラッグキャンペーンに取り組んでいるカンポンもあります。このようなカンポンには、住民の健康増進のためのスポーツ施設も提供しています。

平均世帯収入を上げるため、家族計画プログラムを実施するとともに、事業の成長もサポートしてきました。これには、遺産地区やカンポンの伝統的な遊びの保存等も含まれています。

スラバヤは長い沿岸線で構成されているので、漁師のニーズに対応することも大事です。沿岸線を浄化するプロジェクトによりカンポンの漁師の収入がアップし、結果として漁業セクターの成長につながりました。また、この地域の保全のために新しい橋を建設したところ、今では新たな観光地になっています。

廃棄物管理の重要性

環境プログラムの実施と、リデュース(削減)、リユース(再利用)、リサイクル(再利用)の3つのRの推進を通して、カンポンだけでなく学校や官庁のオフィスでも、ゴミの管理に対する市民の意識が高まりました。今では皆、廃棄物を収入やライフスタイルを構成する貴重な要素と見なしています。

この取り組みにより、住民は日常生活で使用した製品や古材をリサイクルするようになりました。使用済みのタイヤからゴミ箱を、使用済みプラスティックから書類ホルダーを、使用済みの缶をプランターに、使用済みプラスティックをクリスマス飾りに、といった具合です。

私たちは毎年、リサイクルされたものから作った服のファッションショー、「トラッション(Trashion)」を開催しています。「トラッション(Trashion)」とは、trash(ゴミ)とfashion(ファッション)を合成した言葉です。

自立した地域密着型の管理を通して、住民は自ら廃棄物を選別し、カンポンや学校など市全域に設置されているゴミ廃棄場のゴミを売っています。現在ゴミ廃棄場は260か所にあり、合計16,000人以上が廃棄物の売買に従事しています。これは1ヶ月あたり11,000米ドルの利益に相当します。今や住民は、無機廃棄物をリサイクルして製造した製品からも副収入を得ているのです。同時に、市は有機廃棄物を処理するための堆肥化施設を所有しています。26の堆肥化施設と、北九州市との協力で建設されたリサイクル型中間処理施設 (Super Depo) により、市の廃棄物総量を70%削減するという驚くべき成果を達成できました。

公園の設置と整備計画

地下に水冷システムをほどこした美しい歩道も整備しました。スラバヤでは夜が比較的暑いためです。人々は外出し、歩道を歩いて新鮮な空気を吸い、交流を深めることができます。

市民のストレス解消と交流を目的としたパブリック・スペースとして、スラバヤ市内の合計94ヘクタールに及ぶ地域の372箇所に公園を設置しました。それぞれが特定の目的をもってデザインされており、互いに異なり、ユニークな存在です。たとえば眼の不自由な人が楽しめるようセンサーを配置した「しゃべる公園」があります。さらに、以前は埋立地として使われた公園、高齢者用の公園、末期癌患者の苦痛を和らげることを目的とした公園もあり、利用者や訪問者が集まって互いの体験を語り合うなどの交流ができるように考えられています。ジョギング用トラック、運動場、無料Wi-Fiは、すべての公園で利用できます。

露天商や屋台も導入していますが、これは地域経済への寄与のほかに、食品衛生を管理する意味もあります。景観や街の美観のため、35ヘクタール分の花も植えました。花の栽培に使用する肥料は、先ほどお話しした堆肥化施設から調達されます。

 ICF2017でのトリ・リスマハリニ市長の講演の様子の写真

さて、ここまでご紹介してきた環境改善の成果ですが、まずは、人口が増加しているにもかかわらず、埋め立て地に投棄される廃棄物の量が減少しました。 ふたつめとして、大気の質の改善により、悪環境に起因する疾病の数が減少したことがあげられます。

また、ティーンエイジャーは落書きが大好きです。かつてはトラックの荷台など、あらゆるところに落書きがあふれていました。そこで実験的に、若者が心ゆくまで「壁画」を描ける特別なスペースをつくったところ、これらの壁画は今、スラバヤを美しく、豊かな色彩で彩っています。

住民参加型のまちづくりを

市長として初めて市政に関わった2010年、市の50%の地域で頻繁に氾濫が起きていました。そこで、それまでより大きく、より良い排水システムを構築した結果、氾濫の率をたったの3%、面積にして1,228ヘクタールにまで減少させることに成功しました。

廃棄物の管理に加え、効率的な水の利用にむけて、住民は簡便で低価格な設備を考案しました。市全域にわたり60箇所に設置されたこの設備により、水の使用量とコストを14~20%節減できるようになりました。水処理施設から排出される灰色の水を、バイクや車の洗浄や植物の水遣りに使用できるようになったからです。

太陽エネルギーの利用により、エネルギー消費量も減っています。街灯の数は増加していますがエネルギー消費量は減少しつつあり、嬉しいことにこの試みもうまくいっています。

住民の経済水準向上のために考えられたのが、「経済ヒーロー」というプログラムです。貧困層の主婦を招き、ビジネスを始めるために必要な訓練と手段を提供するのですが、2010年には89のグループでスタートし、今ではスラバヤで6,700の女性グループが成長を続けています。

また、若い人たちが関心のある分野でビジネスを始められるよう、「若き戦士」というプログラムもあります。現在このプログラムには600以上の若者グループが参加しています。

こういったプログラムからビジネスが生まれ、その製品パッケージやブランド作りに取り組むクリエィティブな若者グループとも、我々は協働しています。才能ある若者のビジネスを支援することで、彼らとよい関係を築き、協働のための環境を整えることが、ひいてはビジネスや産業の発展につながると考えています。

少し話が戻りますが、市では屋台や露天商のために45箇所のセンターを建設しました。食べ物を提供する設備環境を整え、販売に適した場所を提供するためです。利用客が快適かつ安全に商品を買い求められるようになることで、露天商の収入増加につながります。また、数あるカンポンがそれぞれユニークな地元製品を創り出し開発を進められるよう、ビジネス・カンポン・プログラムも開発しました。

都市農業も、都会の限られた耕地を活用するひとつの解決策でしょう。市には、39の農業者グループと45の漁業者グループが都市農業に携わっています。彼らは月々、最高で742,000米ドルの収入を稼ぎ出しています。

国際的にデジタル化が進む時代に市民が対応できるよう、市では、情報技術(IT)について学び、無料でインターネットが使用できる学習センターを設置しています。事業主向けにオンラインでマーケティングを教える教育プログラムもあります。インターネットへのアクセスによって市民が行政サービスを容易に受けられるよう、市の全域には合計1,900箇所のWi-Fiスポットがあり、無料で利用できます。学生が楽しく学ぶことのできる外国語学習センターと数学学習センターも無料です。

大切なのは、市民のニーズに敏感であること

大多数の市民は市政に対し、不可欠なサービスを簡便かつ素早く提供することを期待しており、これは大きな課題です。我々が、行政管理や公共サービス・プログラムの提供をすべて電子行政システムで行う理由はそこにあります。事業の予算編成、計画、モニタリングに始まり、出生、死亡、そして結婚の証明書発行に至るまで、すべてに市のオンライン・システムを適用できるからです。市民は携帯電話を使って申し込み、自宅のアドレスに直接必要書類を送ってもらうことができるのです。

また、市役所内のすべての部署を統合し、警察部門と協力するために、緊急電話番号112*2 により迅速な対応と通報を支援するコマンドセンターも設置しました。私たちが受け取る緊急通報は、非常にユニークなものです。通報は緊急事態に限定されたものとは限りません。水道が止まってしまったとき、街灯が消えてしまっているとき、排水システムが閉じているときなどにも、市民は112に電話をかけます。入院した父親を見舞うため、子どもを病院に連れて行ってほしいと頼んできた人もいました。家庭内の問題を相談してきた人には、カウンセリングを受けるよう提案したこともあります。

*2 インドネシア内のほとんどの携帯電話から発信できる緊急通報用の番号。

かなり駆け足でお話してきましたが、スラバヤ市長としての今後の夢は、スラバヤが市民にとって安全で快適な住まいであり、市民が必要とするサービスを手軽に提供できるような都市にしていくことです。

ご清聴、ありがとうございました。

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