『サタンジャワ』サイレント映画+立体音響コンサート・プレトーク 森永泰弘×福島真人「サタン・音・欲望」

Interview / Asia Hundreds

サウンドデザインの意味

福島:ちょっとここでサウンドデザイナーという肩書について伺いたいのですが、結構新しい職なので、ウィキペディアにも出てないと言われますが、特に森永さんの場合、フィールド調査もやるし、そういう作品も出すし、コラボもしますけど、その境界線というか、音が関われば何でもやってしまうみたいな感じですか。

森永:そうです。僕の場合、何でそういう言い方をするかというと、まず初めにデジタルメディアを使った活動をしていて、音をデザインするというのがいわゆるデジタルメディアが出てきてから活性化された言葉だと思っていて。

福島:自分で出来るというか。

森永:自分で出来るし、音を視覚化できます。そこが僕にとってはすごく大きいです。それってまさに時間に音を貼っていったり、映像と音を組み合わせていくという、まさに僕にとってはデザインであると思って、そう呼んでます。

福島:純粋に現代音楽みたいな分野にも興味がありますか。

森永:現代音楽を作るのも一種のデザインだと思っていて、僕にとって手法をデザインという言葉に置き換えている所が大きいです。だから、音を使って映像を付加していくような事も、もちろん音のデザインの一つだと思いますし、現代音楽というものを作っていかなければいけないならそれも一つのデザインだと僕は思います。

福島:それは自分の活動領域に入っている?

森永:そうです。ただ勿論自分で出来ない事もあります。今回、例えばこの『サタンジャワ』でどうしてもやりたかった事は、コレクティブな音の作り方。バニュアンギの伝統の音楽やバンドゥンの儀礼音楽があって、それを全部僕が作曲するわけにもいかないし、かといって、彼らの伝統をそのまま持ってきて、伝統音楽見本市みたいなこともしたくなかったから、彼らが持っているものをどうやってこの映画の情報と作品性を使って拡張していくか。その部分を皆で作り込めるための場作りが、今回の音の作り方のキーワードです。

福島:小さいニッチを超えるという戦略を考えた時に、この『サタンジャワ』のこのやり方はどうでしょう。ジャワというのを全面に出して、ドーンといくというやり方が、世界のより広いオーディエンスに訴える戦略としては。

森永:僕はこの作品に取り組む時にジャワということを考えないようにしました。ジャワに行って音楽家を見つけたけど、決して、ジャワ島の伝統音楽を作品の中に入れていきたいから彼らを選んだという事ではなくて、彼らが持っているものに対して、どれだけ伸び代を作っていける事が出来るのか。それを見極めて、今回たまたまこういうメンバーが集まったという感じです。だから、彼らも恐らく、バンドゥンの音楽を弾いているという意識はないと思います。

アジアハンドレッズのインタビュー中の森永氏と福島氏の写真

オーディエンスを考える

福島:伝統的な素材を使いながら、そこを超えたい人の共通の、まさに伸び代をどこまで広げられるか、という課題でしょうね。海外から見ると、ある種のエキゾチズム枠があってその中ではいいけど、世界的なオーディエンスがいて、それをある程度意識しながら広げていくというか。そういう戦略的なものはよく感じますか。

森永:今回の場合は映画があるから、その伸び代が全部映画の中の視覚的な情報に付加できるので、あまり違わない方向だと。そこを上手く調整していくのが僕の役割だと思っているから、例えば彼らが、コレコレをしたいんだけどうだ?って言ったらば、では取り敢えずやってみようというやり方をしてます。やってみたときに、本人も変だなというのは分かるものなんです。それが分からなければ、その人達を選んでないし、その人達と一緒にやってないだろうなと。

福島:そこって、結局アートの基本というか、オーディエンスはどこにいるのかなと。

森永:オーディエンスを勿論僕は考えます。現代音楽で、僕が聞いても難解な音を1時間ずっと映像に充てて聞かされたら、つまんないって僕も思ってしまう。自分自身が面白いと思えるようなアプローチで知らない音楽を紹介していくというのが、この作品に関しては僕が課せられている役目の一つなのかなと思っています。

福島:もう少し一般的に、ほかの作品なんかで非常に前衛的なのもよくあると思いますが、その場合の想定はどうですか?

森永:すごくいい質問だと思います。僕はお客さんの事を考えたら、音楽以上に光を考えます。光とか視覚的なところで音楽、音がどういうふうに聞こえるのか。その音が聞こえることで光が見えるのだろうとか、共感覚的なものをどれだけ体感的に揺さぶる事が出来るのかというのが、特に舞台物の作品を作る時には注意するようにしています。

福島:光の効果と音の効果を両方含んでるような。

森永:そう。例えばある音、音楽作品を作った時に、それをライブにしたいと。そこで例えば、パソコン上でこうやって演奏したり、誰か演奏者がいるだけだと、その音楽を聞いているだけにしかならなくて、そこにものすごい量の煙や、光がピカピカしてたら、そこに今度、二次的なイメージとか想像とかそういうものが生まれてきて、そういうアプローチを割と僕は大事にするようにしています。

福島:それは重要ですよね。それで、今回は大成功と(笑)。

森永:いやいや、それはもう……(笑)。

森永氏と福島氏の写真

【2019年6月8日、東久留米にて】

【公演情報】

「『サタンジャワ』 サイレント映画+立体音響コンサート/響きあうアジア2019」

【参考情報】

CINRA特集記事
「コムアイ×森永泰弘 『サタンジャワ』の音作りで挑む、神秘の復活」
Eiga.com コムアイ・インタビュー
「コムアイ、インドネシア巨匠の白黒サイレント映画でライブパフォーマンス「地球人として声出したい」」


インタビュアー:福島真人(ふくしま まさと)
東京大学大学院・総合文化研究科教授。専門は科学技術の社会的研究、認知と組織、東南アジアの宗教・政治・アート等。『暗黙知の解剖』(2001金子書房)、 『ジャワの宗教と社会』(2002 ひつじ書房)、『学習の生態学』 (2010東京大学出版会)、『真理の工場』(2016東京大学出版会)、『予測がつくる社会』(2019東京大学出版会)、On small devices of thought: Concepts, etymologies, and the problem of translation.[B.Latour & P. Weibel eds. Making Things Public: Atmospheres of Democracy](2005 MIT Press)。「病んだ体と政治の体-アピチャッポン・ウィーラセタクンの政治社会学」[夏目深雪、金子遊(編)『アピチャッポン・ウィーラセタクン』](2016 フィルムアート社)等。