「震災復興における芸能/芸術祭の役割-メセナの思想」
加藤 種男(クリエイティブ・ディレクター)
メセナという、芸術文化活動そのものをやるわけではなく、それを応援する側から、いったいどういう風に震災復興において芸能や芸術祭というものが見えてきていたかということを話したいと思う。3つ位の経緯、きっかけをお話する。
1つ目は、三陸地域に震災の前から接点があったということがある。2010年に「きりこ」という活動をしていた。きりこは、それぞれのお宅の特色を伺い、それを切り紙に出す、というもの。これをやったことによって地域社会の人々も、お互いに実はあまりよく知りあっていない、ということも分かってきたため、これを南三陸町全部に広げようということを、2011年2月に町内の大発表会でされた。そのちょうど1か月も経つか経たないかの頃に震災が起きた。このきりこをささやかながら我々が応援していた理由は、アサヒ・アートフェスティバルという、全国の色々な市民主導のアートプロジェクトのネットワークのための組織を作っており、アサヒビールにスポンサーになってもらっていた、という経緯によるもの。震災後、このネットワークが機能し、関係者の安否確認ができた。また、きりこをみんなで作って南三陸に送ったら、もしかすると我々が南三陸のことを忘れていないというメッセージになるのではないかと思い、必要な物資とともに、全国できりこを作って送った。
震災後、世界中の人が日本から消えた。今はインバウンドで観光が復活したわけであるが、非常に危機的状況であった。そこでアジアのアーティストに日本の現状を知ってもらおうと思い、南三陸で一緒に交流をした。この時にも国際交流基金に支援をいただき、そもそもどういうアーティストがどこにいるか等を教えていただいた。
2つ目は、震災当時、主たる業務を企業メセナ協議会でおこなっていた。1995年の阪神淡路大震災の際も、芸術文化が復興において大きな役割を果たすのではないかと考えていたが、何も手立てが尽くせなかった、ということが宿題としてあった。今回はその轍を踏んではならないということで、早く復興支援するような何かができないかと、スタッフが東日本大震災芸術文化による復興ファンドを作り、芸術文化復興の頭文字をとって、GB Fundを作った。大したことはできなかったが、これは3月のうちに作った。なんとか芸術文化が役に立つのではないかと。そのうちに、被災地から太鼓がほしい、という話を聞いた。家もまだない、食べ物、衣類その他十分でないという状態の時に、太鼓がほしいという声があるということで、どういうことだろうと思った。最初のころは外からの応援が意味があるかもしれないと考えGBFundを作ったが、外からの応援ではなく、被災地の郷土芸能やお祭りを復活させることが人々の生きる力の源になると気づいた。そこで百祭復興というキャッチコピーを考え、100位のお祭りの復活を応援する、ということをした。
3つ目は、アサヒ・アートフェスティバルの関係。お祭り型アートプロジェクトを作るのが1つ我々の狙い。祭りはもともと見物人がいないもの、あえて見物人と言えば神様が見物人で、神様に奉納するというもの。関わる人全員が作り手で、神様に観ていただく。これは今日の芸術のありようと逆である。今は芸術家だけ、少数が作り手で、多数の我々が見物人、という構造であるが、これをひっくり返せばよい、つまりお祭り型アートプロジェクトのようなものを考えればよいのではないかと考えた。そこからさらに仕事や町のあり方、村のあり方を変えていく、そうしたクリエイティブな柱に、もしかすると郷土芸能がなるかもしれないと思った。
最後に2つ提案をして終わりたい。
1つ目は、被災遺産の保存活用をきちんと支援する制度を作っていくべきではないか、ということ。これは国、自治体、企業を含めて、ぜひ考えていただきたい点である。
2つ目は、郷土芸能の継承への支援制度の設立。うまくいっている地域もあるが、郷土芸能は後継者、継承が難しい。三陸国際芸術祭のおかげで、継承ということについて、すごくいい仕組みが生まれたと思うので、これを全国的にも幅広く、郷土芸能の継承支援ファンドのようなものを作っていけないか。
パネルディスカッション
吉本 光宏(ニッセイ基礎研究所研究理事)
中村 一郎(三陸国際芸術推進委員会委員長、三陸鉄道株式会社社長)
赤坂 憲雄(学習院大学教授)
鏡味 治也(金沢大学教授)
加藤 種男(クリエイティブ・ディレクター)
相澤 久美(NPO法人震災リゲイン代表理事、一般社団法人サイレントヴォイス理事)
講演後は、三陸国際芸術祭の今後の発展について議論するパネルディスカッションを実施しました。
パネルディスカッションでは、地域における芸能の意味から、郷土芸能の継承への支援、宗教や歴史の観点、また芸能がバリ島にもたらした事例を鑑みながら三陸国際芸術祭のインバウンドとしての側面も含め、様々な観点から活発な議論がおこなわれ、最終的には、地元の方々とともに、官民連携しながら、三陸国際芸術祭をアジアとの交流も含めてどう継続していくか引き続き議論が必要であると確認しました。
参加者からは、祭りについて様々な角度から学ぶことができとてもよかった、というような感想をいただきました。
写真:佐藤 基
【2019年7月6日、東京芸術劇場 ギャラリー1にて】