メイスク・タウリシア&高崎 郁子――日本とインドネシアの映画交流[上映篇]

Interview / 第29回東京国際映画祭

映画のプログラミングとは

村田:メイスクさんと高崎さん、お二方にお聞きします。ロケーションや客層、他にも様々な条件がありますが、お二方の劇場や上映スペースでは何を考えてプログラムを組んでいるのでしょうか。

高崎:アテネで働くようになって4年近くになりますが、プログラムを始めたのはこの2・3年でさほど長くありません。初めて担当したのは、アメリカの黒人映画のパイオニア、オスカー・ミショー*8 監督の特集上映でした。今まで失敗もありますが、上映を組むにあたってまず考えるのは、どういうお客さんを呼びたいかということです。
東京の場合、例えばポレポレ東中野はドキュメンタリー、早稲田松竹は近作の二本立てというように、映画館によってカラーがあります。アテネ・フランセ文化センターでは、西洋的な批評で評価されている映画に人気が集まりやすいですが、自分が担当する上映ではいろいろ冒険するようになりました。今回で言えば、『9808―インドネシア民主化10年目のアンソロジー』(オムニバス/2008)、『三人姉妹』、『短編映画傑作選』は、アテネのお客さんを意識したものです。
『9808』は日本の映画祭でも紹介されている中堅監督のオムニバス、『三人姉妹』はインドネシア映画の父ウスマル・イスマイルの代表作、『短編映画傑作選』はカンヌやベルリンなど世界的な映画祭に招かれている若手作品なので、冒険をしながらもある程度アクセスしやすく知名度がある作家の作品がアテネの客層にはいいのかなと思っています。

*8 オスカー・ミショー(1884–1951)は、44本以上の映画をプロデュースしたアフリカ系アメリカ人の小説家・映画作家。Micheaux Film & Book Companyを設立したのち、『自作農家』(1919)を制作。アメリカ映画史において最も成功した黒人映画作家として、近年再評価されている。

東京国際映画祭 クロスカットアジア連携企画 カラフル!インドネシア2 のイメージ画像

メイスク:私はプログラマーとしては、これまでほとんど経験がありません。だいぶ前に、ジャカルタ映画祭でボランティアをしたことはありますが、作品選考には関わっていませんでした。けれども、コレクティフを作るにあたり、上映が避けられない仕事として回ってきてしまったわけです。
コレクティフでは、インドネシアのインディペンデント映画にフォーカスを当てています。当初は作品も数えるほどで、テーマ別に上映するぐらいの簡単な作業でした。昔は長編ばかりでしたが今は短編も上映しますし、製作本数も増えています。また、少ないけれど外国映画も上映しているので、プログラミングと言われる役割が増えてきているかもしれません。インドネシアではインディペンデント映画の上映機会があまりにも限られているので、その上映機会を確保することが自分たちコレクティフのひとつの使命だと思っています。

インタビューに答えるメイスクさんの写真

メイスク:同様に、コレクティフでは「映画祭とは何なのか、どういう役割を果たしているのか」という指針になるようなプログラミングができると思っています。よく映画監督から「どうしたら映画祭向けの映画が作れるのか」なんて聞かれるのですが、それは当然ながら間違っている考え方です。映画は映画祭のために作られるのではなく、まずは映画が作られて、それが映画祭で上映されるという順番であるべきです。私たちプロデューサーもよく使いますが、メディアは著名な映画祭で上映されたという箔をつけてプロモーションするので、観客は「映画祭映画」というのがあると勘違いしてしまうんです。しかし、私たちが伝えたいのは「映画祭向け映画」があるのではなくて、「良い映画が映画祭で上映される」ということなんです。

インタビューに答えるメイスクさんの写真

村田:最後に一言ずつ感想をお願いします。

メイスク:高崎さんとのコラボレーションはとても幸運なものでしたし、私だけでなく作品を提供した権利元や監督も喜んでいることは間違いありません。今後のチャレンジは、ファンディングだと思います。今回は国際交流基金の協力が大きかったですが、今後はこのネットワークを生かし、自分たちだけで上映を実施できるような仕組みづくりについても考えていきたいと思います。

高崎:メイスクが指摘したとおり、ある程度の規模の特集上映をするにはそれなりの資金や回収が大きな課題となります。それでも工夫のしがいはあると思うので、まずは小規模なものから始めるなど、今後も何かしら実現できたらと思います。

村田:本日はありがとうございました。

メイスクさんと高崎さんの写真

【2017年1月28日、アテネ・フランセ文化センターにて】


参考

編集:西川亜希(国際交流基金アジアセンター)
通訳:藤岡朝子
写真:小出昌輝