ベトナム映画の多様性と今後の課題
本シンポジウムでは、現代ベトナム映画を象徴する3つの主題―商業映画、芸術映画、越僑による映画―から、それぞれの立場を代表する登壇者に、各自の状況を語ってもらった。興行収入や製作本数も年々増加し、ベトナム映画界自体が広がりを見せるなか、映画人たちは、その独自の多様性を生かすべく、これからのベトナム映画にどのような思いを抱いているのだろうか。
ゴー・ティ・ビック・ハイン:ベトナム映画は、今まさに伸び盛りです。しかし今後の課題として、ひとつは映画の観客にあると思います。ベトナム映画が持つ多様性に対し、観客がさらなる理解を深めるためには、まだまだ時間が必要です。少なくとも5年から7年の歳月をかけることで、初めて今の映画の多様性を本質的に理解する層が形作られることでしょう。また私たちが作る映画の多くは、韓国資本に支えられています。この産業構造は国内の映画製作に大きな影響を及ぼしてきました。しかしこの状況をある種の競争と捉え、相互作用を生み出す関係になれば良いのではないでしょうか。そのためには私たちが互いに団結して、ともにベトナムの多様性を守っていく必要があると思っています。多くの色合いを守っていかなければ、ベトナム映画の勢いは落ち込んでしまうでしょう。そういった意味でも、これからの5年間は困難な時代であると同時に、今後のベトナム映画界をナビゲーションしていく上でも重要だと思っています。
グエン・クアン・ズン:ベトナムの人々は長い戦争の時代を過ごしてきたので、民族的な性格上、できれば安定に向かいたいと思っています。だから困難が起これば私たちはすぐに団結するし、事態が快方へ向かえばすぐに個人のことを考える傾向にあるんです。私たちは新たな世代としてそのことを理解しているので、将来的には今日こうしてみんなで座っているように、自分のことだけでなく、お互いが良くなっていくための方法も考えていかなければならないと思っています。
ファン・ダン・ジー:国内では若手が映画を作るための条件や環境が整ってきていますし、彼らはその変化にうまく適応できています。私自身はAutumn Meetingという若い映画作家の育成を目的としたワークショップを毎年ダナンで行っていて、その中で彼らの創造性をさらに発展させる方法を模索しているところです。もちろん映画を作ることは、検閲に限らず、越えていかねばならない障壁や圧力がつきものです。そうした克服すべき問題をクリアするために、どんな方法や手段があるのかを日々の中で考え続けています。
ヴィクター・ヴー:ベトナムで映画を作り始めて8年になりますが、社会がどんなに変わっても、ベトナム人はつねに情感豊かで、情け深い民族だと思います。毎日さまざまな映画を観ていますが、その中で描かれる人間の感情は観る人を惹きつけます。そうしたことを念頭に、今後もベトナムで映画を作り続けていきたいです。
多様な映画を受け入れることができる観客の育成、外国資本との競合、検閲の問題や若手映画人の育成など、ベトナム映画が今後さらに発展していくためには、越えるべきいくつもの壁が待ち受けている。しかし、彼らが自身のフィールドを越えて手を取り合い、さらなるベトナム映画の潮流となることを切に願っていきたい。そのためには、日本の私たちもベトナム映画の今後の動向に注目していかねばならないだろう。現代をリードする映画人が一堂に会した本シンポジウムは、ベトナム国内においても類を見ない貴重な機会となった。ベトナム映画の未来は、まだ始まったばかりだ。
【2016年9月19日 ぽんプラザホール(福岡市)にて】
参考資料・リンク
- 「ベトナムにおける映像市場調査(映画・テレビ)」(2015年2月、日本貿易振興機構)
- 「ベトナム進化形~ベトナム映画に何が起こっているのか?」(アジアフォーカス・福岡国際映画祭2016カタログ P116-119、坂川直也)
写真:隈元博樹、アジアフォーカス・福岡国際映画祭実行委員会