ぼくらは本当にお互いを知らないってことが、よくわかった1年でした。(大友)
能町:今年2月に開催される『Asian Meeting Festival 2016』には、どんなミュージシャンが参加するんですか?
大友:それが、ぼくもほとんど知らない人ばかりなんですよ(笑)。ディレクターは昨年と同じく、シンガポールの音楽家ユエン・チーワイと香港在住のdj sniffこと水田拓郎です。この二人にアジア各国をいろんな角度からリサーチしてもらって、面白い人を集めてもらいました。単純にいいミュージシャンというだけじゃなくて、それぞれの地元で企画をしている人とか、この先のネットワークにつながるような人という視点でも選んでもらってます。一度きっかけを作れば、人のつながりってどんどん勝手に広がっていきますから。
能町:そういう感じいいですよね。
dj sniff(水田拓郎)
ユエン・チーワイ
大友:去年参加したミュージシャン同士が、その後ベトナムで一緒に演奏しているのをFacebookで知ったり、マレーシアに呼ばれて共演したりしていて、そういう広がりがもっともっと生まれたら嬉しいですね。あとは、一人ひとりのライブパフォーマンスも観たいという声が昨年多かったので、今年はみんなでやる即興演奏に加えて、それぞれの音楽家の音が聴けるセッションも増やしました。
能町:有名なミュージシャンを集めているわけではなく、各国の音楽シーンをくまなくリサーチして厳選したミュージシャンが集まるというのは、ちょっと他にはない音楽フェスですよね。なんだかよくわからないお祭りみたいに楽しめるといいなと思います。
―今年は他にどういった活動をされるんですか?
大友:「ENSEMBLES ASIA」のプロジェクト全体では、大きく3つの柱があって、『Asian Meeting Festival』を行なっている「Asian Music Network」。一般の人たちも含めて、誰もが参加できるオーケストラを結成していく「Ensembles Asia Orchestra」。従来の音楽や美術という枠では捉えきれない中間領域の表現を探す「Asian Sounds Research」の3部門でやっています。昨年はタイのチェンマイで、地元の民族音楽をやってる子どもたちや学生たちと一緒に即興のアンサンブルを組んでみたり、ベトナムのハノイで、一般の人たちと一緒に楽器を作ったりしながら、「ハノイ・コレクティブ・オーケストラ」という試みをやったりしたんですよ。
能町:人はたくさん集まりました?
大友:物珍しかったのか、たくさんの人が来てくれました。楽器を持っている人も少ないので、ハノイでは自分たちで楽器を作るところからはじめたんですが、楽器だけ作って演奏せずに帰っちゃったり、想定外のアクシデントが続出。しかもベトナムの学校では、音楽の授業の教え方が違うのか、「イチ、ニ、サン」で合わせられなくて、まさにカオス(笑)。でも、100人以上が集まって、素晴らしいアンサンブルになったんですよ。最高でした。
能町:「イチ、ニ、サン」が世界共通のルールじゃなかったって驚きですね。
大友:でも食事の乾杯のかけ声なんかはピタッと合うから、リズム感はあるんです。ルールや間の取り方が違うだけ。ぼくらは本当にお互いを知らないってことが、よくわかった1年でした。
―今後、それぞれの関係性もどんどん深まっていきそうですね。
大友:1年目は立ち上げるだけで精一杯だったから、今年はより具体化する年になると思っています。「Asian Music Network」は面白いミュージシャンを見つけて出会わせちゃえば、あとは勝手に広がっていくから一番わかりやすい。「Ensembles Asia Orchestra」も一緒で、ベトナムでオーケストラをやったあと、現地の日本人の子が「続けたい」って手をあげてくれて、クラブ活動のようなかたちで続いていくことになりそうです。「Asian Sounds Research」では、昨年マレーシアのペナン島で『OPEN GATE』という、音楽でも美術でもない一風変わった動き続ける展覧会を行なっていて、すごく可能性を感じています。このプロジェクト、今年はカンボジアに行く予定ですが、ディレクターたちが、さまざまな方向でリサーチをしてくれているので、そうした調査や経験が役に立つと思っています。
―このプロジェクトは、『東京オリンピック』が開催される2020年まで続く予定ですが、最終的なゴールのイメージはありますか?
大友:最初はとにかくネットワークでつながったアーティストをたくさん集めて、イベントを一緒にやることを想定していたんですが、1年やってみて、変にそうやってぼくが1つにまとめるのはよくないと思いはじめました。むしろこれをきっかけにして、アジアのあちこちに活動が点在して、重層的にいろいろなネットワークが生まれていくほうが健全。これまで出会う機会がなかったローカルで面白い音楽家たちをつなげていく。そこからいろんなことが自然に起こっていったらいいなって思っています。
能町:お互いの言葉が通じなくても、言葉以外の部分でつながれる共通項を見つけたときって、すごく嬉しいですよね。
大友:そう、それはお客さんにとっても同じで、ぼくらの活動を通して、「知らない人と出会うこと」が面白いと思える環境を作りたい。いい音楽を聴かせるだけじゃなく、お互いに知らなかった人たちが集まって音を出す。そこから生まれる祝祭感が、観に来てくれた人にも伝わればいいなと思っています。