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フィリピンの映画人たちが明かす「第三期黄金時代とは何か?」

Report / 第28回東京国際映画祭

映画における地域多様性の出現

石坂:低予算で映画を撮れるというのは、デジタル映画時代のメリットと言えますね。その点で、シネマラヤ映画祭などに行くと、ミンダナオ出身の監督など、地方出身の人による映画が増えて、地域性も非常にバラエティ豊かになったように思うのですが、特にミンダナオスクールというか、ミンダナオ派というか、そういうものがすごく勢いがありますが、その点はいかがですか?

ファハルド:ミンダナオ派というものはないかと思います。というのも、ミンダナオには映画専門学校がありませんし、私自身もビサヤス出身ですが、映画学校で映画教育を受けたことはありません。元々、演劇畑で俳優、プロダクション・デザイナーとして活動するうちに、カメラを使って映像を撮ることに魅せられてしまいました。90年代に8mmビデオを使って撮るというプロセスを経て、映画作りの虜になってしまったわけです。ミンダナオの場合は分かりませんが、ストーリーには事欠かない地域ですので、そういった意味でミンダナオからどんどん監督が生まれているのではないでしょうか。

ティエン:これはメンドーサ監督と私が共通のビジョンを持ち合わせていたからか、それとも潜在的にあったものかは分かりませんが、今回シナグ・マニラ映画祭で選んだ5作品は全て異なる地方のものでした。『SWAP』という作品はセブ島で撮られたもので、方言が使われています。また、『Bambanti』という作品はルソン北部で撮られており、イロカノ語という方言を使用しています。多様性を見せることというのは、私が運営するテレビ局で放送するニュースでも同じことが言えます。放送では英語、タガログ語に加えて、セブアノ、そしてパンパンガ地方の言語も使用しています。

サンタ・アナ:インディペンデント映画が台頭する前は、フィリピンのメインストリームとされる作品はほとんどがマニラを中心にして展開されてきました。ですから、商用映画では、マニラの生活ばかりを目にすることになり、ほとんどがタガログ語で撮られています。そのため、ビサヤス地方やミンダナオ地方の文化を見る機会がない、または見ても分からないという状況があります。ところが、シネマラヤ映画祭やシネマ・ワン映画祭、シナグ・マニラ映画祭では、フィリピンの多様性を非常に重視していて、地方のアーティストの映画づくりを可能にしてくれているし、映画・芸術面で妥協を強いられる必要がなくなりました。

ティエン監督と司会の石坂氏の写真

ファハルド:実は、いまポールが指摘したように、マニラ中心の映画はメインストリームのものなので、主要言語であるタガログ語にならざるを得ません。そんな中、2005年の第1回シネマラヤ映画祭では、自身の故郷バコロドで撮った短編映画『Kultado』が選出されました。私はビサヤス出身なので、本作ではイロンゴという方言を使用していたのですが、人々は方言を理解できませんし、バカにされることもありました。しかし同映画祭では、私の作品は字幕がついたおかげで、皆さんに理解してもらえました。だから他の作品や監督と並んで、自分はまるで外国人、自分の作品は外国映画のような感覚でした(笑)。ただ幸いにも、このときに私は審査員賞を受賞することができました。

石坂:はい、では会場のみなさんよりお聞きになりたいことがあれば。若手の登竜門の場が多いとか、地方の多様性を表現するような状況になっているとか、個人で映画製作を支援する人もいるとか、いろんな話が出てきましたが。

観客:フィリピンのシネコンやマーケットはどのような感じで、映画のセールスは国内映画と海外映画、どのような配分になっているのでしょうか?

ティエン:フィリピンの映画市場はハリウッド中心です。大手スタジオのアメリカの作品が多いわけですが、最近では国内のローカル映画の上映が増えてきたというシフトが見られます。つまり、ローカル映画が上映期間を獲得して、より長く上映できる機会が増えています。特に興味深いのは、インディー映画がメインストリームになってきているということで、これは我々も明確な原因が分からない現象となっています。3、4年前には『Pac da tagala』や『Small de vares』、また最近ではメトロ・マニラ映画祭に選出された『English only, please』と『That thing called Tadhana』が全てPHP2億(約4.96億円)の興収を記録しています。そして、いま上映されている(2015年10月現在)『Heneral Luna』という作品については、大手のスタジオが全く関わっていません。若手制作者による映画が非常に良い興収を記録しているのは、SNSに拠るところがとても大きいですね。中国や日本でも同じ状況だと思いますが、マーケティングにおける成功はデジタルメディアを駆使することにかかっており、それが出来れば、ある意味大手スタジオの力を借りなくて済むという状況が生まれています。そしてもう一つ言い忘れましたが、映画製作において権利状況も大きく変わってきています。先ほどポール・サンタ・アナ監督も言ったように、技術の進歩によって上映のプラットフォームが非常に増えてきているわけです。以前はホームビデオくらいしかなかったのが、今はビデオオンデマンド(VOD)などのプラットフォームができて、映画収入の様式も多様になってきたわけです。

石坂:はい、ありがとうございます。残念ながら時間が来てしまいました。フィリピンの商業映画に関する記事は、CROSSCUT ASIAの特別冊子にも載っていますので、そちらも参考にしてください。本日は、ありがとうございました。

(2015年10月26日

詳細

イベント名 国際交流基金アジアセンターpresents「CROSSCUT ASIA #02 熱風!フィリピン」シンポジウム「『第三期黄金時代』とは何か? フィリピンの若手監督が語る」
日時 2015年10月26日(月曜日)16時から16時40分
場所 TOHOシネマズ 六本木ヒルズ スクリーン1
登壇ゲスト ローレンス・ファハルド、ポール・サンタ・アナ、ウィルソン・ティエン
司会 石坂健治(TIFFプログラミング・ディレクター)