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第31回東京国際映画祭・国際交流基金アジアセンター特別賞受賞 ホアン・ホアン監督 『武術の孤児』特別上映&監督・関係者トーク 開催レポート

東京国際映画祭「アジアの未来」部門では、アジアの新鋭監督の長編3本目までの作品を対象にしたコンペティションを実施しています。国際交流基金アジアセンターでは、2014年より毎年同部門で国際的に活躍していくことが期待される監督に、国際交流基金アジアセンター特別賞を授与。受賞者にはトロフィーとともに副賞として日本招へい旅行を贈呈しています。

中国のホアン・ホアン監督は第31回(2018年)東京国際映画祭「アジアの未来」部門国際交流基金アジアセンター特別賞を受賞。今回の来日を記念して2020年2月1日(土曜日)にアテネ・フランセ文化センターで開催された上映会およびトークは、大勢の監督や映画ファンにご来場いただき、盛況のうちに幕を閉じました。なお『武術の孤児』製作に携わった共同プロデューサーのホウ・シャオドン氏、助監督・脚本家のジョウ・シャオラン氏もトークに登壇しました。モデレーターは、東京国際映画祭「アジアの未来部門」プログラミング・ディレクターの石坂健治氏。映画を紐解き、制作の裏側や、監督の映画制作への思いを探っていきました。

ホアン・ホアン監督、ホウ・シャオドン氏、ジョウ・シャオラン氏、石坂氏の写真

この日上映されたのは、ホアン・ホアン監督の長編デビュー作で、第31回東京国際映画祭「アジアの未来」部門で上映され、日本劇場未公開の『武術の孤児』。1990年代後半の中国内陸部で中国武術を専門に教える中学校を舞台に、移り変わる季節を美しい映像で描きながら、武術学校という特殊な社会の中で孤立した主人公の教師が奮闘するストーリーです。

上映後に行われたトークではホアン・ホアン監督と、ホウ・シャオドン氏、ジョウ・シャオラン氏が登場し、挨拶をすると会場からは大きな拍手が起こりました。

壇上のホアン・ホアン監督、ホウ・シャオドン氏、ジョウ・シャオラン氏、石坂氏の写真

トークの序盤では、今回の日本滞在の機会に訪れた場所や交流した監督についての話がありました。国際交流基金アジアセンター特別賞の副賞の日本旅行は監督以外に関係者2名まで同伴可能で、次回作のロケハンや映画関係者とのネットワークを広げる機会など、監督の要望に沿った今後の活動につながるような滞在プログラムとなっています。ホアン・ホアン監督たちは日本の映画関係者との面談を希望し、行定勲監督や山下敦弘監督、プロデューサーの市山尚三氏と交流したほか、日本映画大学、国立映画アーカイブ、東宝スタジオなどを訪れ、その時のエピソードを語りました。

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ホアン・ホアン監督

また今回の上映作品『武術の孤児』について、石坂氏より製作費や若手監督支援の取り組みについて質問があり、ホウ・シャオドン氏より自身が携わっている「青ネギプロジェクト」(CFDG Young Director Support Program)について、「中国の電影局と中国監督協会が立ち上げた「青ネギプロジェクト」という若手の監督支援の取り組みに私も携わっています。ホアン・ホアン監督はこのプロジェクトに参加し評価され、この映画の基本的な製作費の支援を受けることになりました。製作費は7,000万円以上かかっていますが、青ネギプロジェクトから支給される賞金は1500万円相当で、それをベースにして出資者を探し製作費を工面しました。」と説明がありました。青ネギプロジェクトでは、毎年何人かの有望な若手監督を選出し、監督たちに対して監督協会に所属する熟練の監督や脚本家の講義を実施したり、優秀な監督には映画の基本製作費を支援したり、また製作の際には製作プロダクションとの橋渡しを行ったりと様々な支援活動をしているそうです。ホアン・ホアン監督は「今回の製作費は日本の新人監督の製作費と比べると非常に高い金額のように感じられるかもしれませんが、中国の映画製作のシステムは人材の面でとても非効率なため、機材や人材を集めるのに新人監督でもそれだけのお金がかかってしまうのです。」と中国の映画業界の問題点を語りました。

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ホウ・シャオドン氏

続けて石坂氏より『武術の孤児』に関する質問がいくつかありました。「劇中の武術学校は中国に本当にあるのですか?」という質問に対し、ホアン・ホアン監督は「中国には武術学校がたくさんあり、特に河南省の少林寺の近くには100くらい学校があって、ロケに使ったのはその中でも一番大きい学校で、数万人の生徒が学んでいる」と答えました。時代背景を1990年代の設定にしたのは、80年代に映画『少林寺』が爆発的なヒットをした影響でその後カンフーブームが起き、90年代には河南省の武術学校に入る子供たちが多かったため、その特定の時代設定にしたそうです。今回の映画は監督、脚本、編集とすべてをホアン・ホアン監督が行っているため、「どの作業が好きですか」との質問に対しては「実際の撮影に入ると妥協や諦めないといけないことが多いので、一番楽しいのは脚本を書いているときです。創造力を存分に膨らませられるから。」とのこと。

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石坂健治氏
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ジョウ・シャオラン氏

ジョウ・シャオラン氏には「撮影で苦労したエピソード」の質問が投げかけられ、「今回ロケ地が本物の武術学校だったため、出演者は本当の学生でプロの役者ではなかったので、皆いたずらで全然言うことを聞いてくれなかったことです。もうひとつ困ったことは、劇中に出てくる校長の飼っていたハヤブサですが、野生動物を飼いならしている方のハヤブサをキャスティングしたところ、全部のシーンを撮り終える前にハヤブサが飛んで行ってしまって戻ってこなかったことです。」というエピソードで会場は笑いに包まれました。

会場の写真

観客とのQ&Aセッションでは質問が途切れることなく続き、活発な質問が飛び交いました。ホアン・ホアン監督は一つ一つの質問に丁寧に答えていき、盛況のなか終了の時間となりました。