映画分野における次世代グローバル人材育成について――「東南アジア映画の巨匠たち/響きあうアジア2019」シンポジウム

Symposium / Asia Hundreds

国を越えて同世代のフィルムメーカーが集まることの意義

池田:藤岡さんと市山さんのお話は、独学や大学などで映画の勉強をしてキャリアを少しスタートした人たちが対象になっていますが、その前段階である人たち、学生を支援する安岡さんからご説明いただいた事例の補足と、これ以外に関わっているプロジェクトについてもお話いただけますか?

安岡卓治(以下、安岡):中国、台湾、韓国、日本。この4つのアジア地域でプロジェクトを行ってみて分かったのは、やはりそれぞれの文化風土が違うということと多様性です。(映画作りの考え方も)地域や大学によっても異なるもので、私自身は劇場公開向け自主制作ドキュメンタリーを手がけてきましたが、参加校の雲南芸術大学や台南藝術大学は映像人類学としてドキュメンタリーを捉えているので、考え方が全然違います。講師作品では延々と証言インタビューを繋ぐ。また、韓国の龍仁(ヨンイン)大学の先生は米国で映画作りを勉強された実験映画の作家で、またドキュメンタリーのスタンスが異なります。こうした全く違う方向性を持った講師たちが一緒に学生と向き合ってみると、矛盾や対立なく意見が合致するのです。それは非常に嬉しい発見でした。また、東アジアの歴史の問題は避けて通れませんが、議論の中にしっかり織り込みながらお互いを理解し合おうという意識が学生や講師の間で芽生え、学生にとってとても良いスタートラインになっていると思います。

また、近年、日本映画大学では外国人留学生が増えています。中国や韓国、ネパール、他のアジア諸国からの学生たちが日本映画について議論しているのを見ると、こういう風に日本映画が観られてきたのかという大きな発見があります。本学では制作実習が多く、一緒に作ることによって学生間のコミュニケーションが深まり、時には激しい対立も起こりますが、議論を戦わせることで、お互いを理解し繋がっていくための大きな力になっていると思います。留学生たちの変化としては、最初の頃は「日本の給料は安すぎ。中国で働けば日本の2、3倍もらえる」と言って日本での就職などハナも引っ掛けなかった留学生が、先日の就職面談では、合理的な日本のプロダクションシステムを身に着けておきたいという理由で「日本で働きたい」と言い出すようになりました。彼らがどのように学び、アジアに巣立っていくのか、非常に楽しみな昨今です。

シンポジウムで語る安岡氏の写真

池田:(国際交流基金アジアセンター主催の)「…and Action! Asia―映画・映像専攻学生交流プログラム―」についてはいかがですか。

安岡:とても有意義なプログラムですね。終わるのがとても残念です。2015年から始まり、日本映画大学もお手伝いをしながら進行したもので、私は第二回のワークショップのプログラム作りを行いました。このプログラムは日本と東南アジアの様々な国から学生が集まって、混成チームでの共同作業を行うもので、私が参加した回は期間が短かったので取材調査を一緒に行い、企画プレゼンテーションをするところまででした。それからドラマ制作、ドキュメンタリー制作とワークショップのグレードが深まってきています。私のゼミの学生も何名か参加しましたが、やはり混成チームでの作業を通して非常に深いコミュニケーションを体験することができました。いまでも国を越えた彼らの交流は続いています。例えば、ベトナムの学生と一緒に作品を作ろうというような動きも始まっているので、日本を一つの中継拠点にしながらアジア、世界がつながり、一緒に映画を作った仲間の絆が広がっていくという確かな手ごたえがあります。

市山尚三(以下、市山):安岡さんの話に付け加えますと、「タレンツ・トーキョー(TT)」も毎回、同期の参加者たちがその後一緒に仕事をしているケースが出てきており、例えばアンソニー・チェン監督(TT2010修了)の『イロイロ ぬくもりの記憶』(2013)は、シンガポールで働くフィリピン人メイドが主人公ですが、シンガポール国内でフィリピン人俳優が見つからないということで、同期のフィリピン人監督シェロン・ダヨックに頼んで、フィリピンでのオーディションを企画してもらい、アンジェリ・バヤニという素晴らしい女優がキャスティングされ、映画が成立しました。本プログラムには色んな国の人が集まっているので、その後の企画で他国の助けが必要なときに、手弁当的に参加してくれるのです。もちろんお金が沢山あればキャスティング・ディレクターを雇えますが、資金がないインディペンデントの制作者たちにとっては人の繋がりでそれが可能になる。他にもフィリピンのハンナ・エスピア(TT2012修了)という監督がタイの空港を撮影するとき、やはり同期のタイの監督に頼んでオーガナイズしてもらうなど、参加者間の横の繋がりでその後一緒に仕事をするというケースが何回も出てきているので、同年代のいろんな国籍の人たちが集まるのは重要だと思いますし、そこに日本人がどう入っていけるかがポイントだと思います。

池田:そうですね、短い期間で知り合って、“響きあう”関係が形成されていくことが多いですね。「タレンツ・トーキョー」では、提出された企画やその人物の将来性に加えて、この人が参加すればその場に化学反応が起きるのではないかという要素も大事にして選考しています。