tomad×similarobjects×Rezky Prathama Nugraha――交錯するアジアのエレクトロニックミュージックシーン

Interview / Asia Hundreds

楽曲の協働制作―スキルや知見を共有する

パトリック:2019年3月に行ったジャカルタでの滞在制作についてもお伺いしたいと思います。レジデンスはどんな体験でしたか?

tomad:僕にとって初めての体験でした。どうなるのかちょっと不安だったんですが(笑)。最初は個々の役割について明確なビジョンがなかったんですが、何日か一緒に過ごすうちにお互いのアプローチや制作の仕方が見えてきて、それぞれが何をするのか、よりはっきりと意識するようになりました。最終日にはすごく面白い状況になって、フルートとサックスの奏者が飛び入りでやってきて、一緒に即興演奏をして、その音を楽曲に加えていったんです。Double Deerと彼らのコミュニティのおかげで最終的な楽曲を仕上げることができました。

similarobjects:僕にとっては毎日が初日のような感覚でしたね(笑)。カオスにもなり得る状況だったから、パンドラの箱を開けるようなスリルがあって。何が起こるか誰も分からないからこそ、その状況を楽しんでいました。スタジオではまさに化学反応が起きていて、全員が積極的に音作りを楽しんでいたので、お互いにストレスもありませんでした。作戦会議もほとんど即断即決で計画が進んでいくので、作業の流れもサクサクと決めていけましたし、自分にとって最高の思い出になりました。「ナシ・パダン」といった食事も美味しかったですしね。

パトリック:滞在中大変だったことはなんですか?

リスキー:そうですね、初日は、いわゆる作業計画みたいなものがあったんですが、いざ滞在制作を始めてみると…。

similarobjects:その通りにいかなかったんだよね。

リスキー:そう、でも2日目にはなんとかなってきました。作業の流れもスムーズになりましたし。

similarobjects:新しい人と出会ったときって、打ち解けるのに時間がかかりますよね。誰かと一緒に音楽を作るには、どうしても互いの気持ちを理解しあう必要が出てくるので、どんな音楽が好きなのかを聞いたりしながら共通点を探るわけです。お互いのことを知れば知るほど、その人の音楽のことも分かってくる。壁が崩れていくというか。だから、もともとの計画から逸れるっていうのは、どちらかと言うと、お互いを理解しあう方法を探していたってことだったんですよね。言語の違いも相まって、そこまでが一番大変な部分だったと思います。

tomad:僕も二人と同じ感想で、それぞれの役割が明確になるまでは、少し時間がかかったように思います。ただ、組み合わせという点ではとてもうまくいったと思います。お互いが衝突することなく、全員が音をどう組み上げていくかを考えて、役割がなんであれみんなが全力を尽くしていました。

リスキー:tomadが言ったように、similarobjectsが曲のベースを作って、PARKGOLFがそれを発展させる音を選んで、Mantra Vuturaがそれを高めていくような役割でしたね。

similarobjects:そのうち全員が音のレイヤーをどんどん追加しはじめたよね(笑)。あと、僕の場合は、いつも支障をきたすのがスランプにはまった時ですね。午前中は気分が乗っていてもだんだん煮詰まってきて、誰かの手を借りないとどうしようもなかったりして。僕は、もうこれ以上考えても何も浮かばないって状態になったら、いつもならさっさと切り上げちゃうんです。こういうとき、外でしばらく瞑想したりしてすぐに切り替えられる人はいいんですが。僕はこのことが今回も一番大きな課題になるんじゃないかと感じていました。でも滞在制作ではほかのアーティストたちがいたので、お互いにフォローし合えたと思います。

Double Deerでの滞在制作の様子
撮影:Jun Yokoyama

パトリック:滞在制作では、単独で活動している時には思いつかないようなやり方をとることはありましたか?

リスキー:Mantra Vuturaにとっては、similarobjectsの表現にあるような音楽を作るのは初めてなので、まったく新しい経験になったのではないでしょうか。

similarobjects:僕にとっては、制作プロセス自体も新しい体験でした。というのも、ノートパソコンを2台同時に開いて制作していたんです。僕とPARKGOLFとでそれぞれノートパソコンを開いてソフトウェアでリンクさせるという状況になって。ひとつの曲をそれぞれのパソコンで作業しながら同時に制作するんですが、ソフトウェアをリンクさせることで、お互いの作業が同期する。それで全ファイルをDouble Deerのエンジニアに渡して、最終的な楽曲にすることができました。僕たちは両方ともパソコンを使うアーティストなので、自分たちのデスクトップにある機能に大きく依存しています。だからこそ、僕はこのやりとりがとても美しいなと思ったんです。誰かと共同制作する時は、いつもだったら「このパソコンを使って作ろう」となるだけですが、今回はPARKGOLFのパソコン画面が日本語で僕はショートカットの使い方が分からないし、彼のセッティングも僕とは違っているかもしれなくて、そうはいかなかった。パソコンは言わば自分自身を拡張した存在です。ほかの人の機材を使う際にありがちな技術的な手間をかけずに、それぞれの制作環境であるパソコン自体を接続できたのは良かったです。制作中は、お互いのレシピを交換しているような感じでした。Mantra Vuturaが僕のシンセサイザーを借りたいと言ったり、PARKGOLFの方からもこの音を使って、とかこのソフトを使って、という風に共有があったり。そういったやりとりを通して、最終的には全員が新しいスキルや知見を得ることができました。フルートの時もそうです。フルートの音階が、あんな風に曲のイメージをがらりと変えるものだとは思ってもいませんでした。

リスキー:PARKGOLFの楽曲(PARKGOLF「Leap (feat. Mantra Vutura & similarobjects)」)で、遊び感覚でクラシックのフルートの音階を入れてみたんです。あれがすごくいい効果を生んで、強烈な曲に仕上がりましたね。

滞在制作にて制作された3つの楽曲。2019年8月にMaltine Records(東京)、Buwan Buwan Collective(マニラ)、Double Deer(ジャカルタ)からそれぞれリリースされた。

PARKGOLF

similarobjects

Mantra Vutura