DANCE DANCE ASIA―Crossing the Movements 東京公演 2019 3T×KATSUYA――ヒップホップの本質を失わず、その裾野を広げるために

Interview / Asia Hundreds

次の世代へ、このカルチャーをつなげていくことが重要

小杉:今回のテーマはどのように決まったのですか?

KATSUYA:テーマに関しては、3Tが100パーセント考えたものですね。

3T:実は来日して最初の1週間で、メンバー全員に会って、彼らの踊りを見て話していく中で、もともと考えていた構成や演出を変更することにしたんです。当初は音楽ももっと別のものを考えていたのですが…ホテルの部屋でランダムに音楽を2時間ほど聴いていたら、しっくりくるものが見つかり、アイデアが浮かんできました。作品のヒントになったのは、2015年に来日したとき、電車に乗っているスーツ姿の日本の男性たちを見たことです。
立ったまま寝ている人もいて、みんな疲れていると感じたんです。そういう生活は私には絶対できないと思い、自分なりに調べて日本の男性は家族の中で重要な位置にいると知りました。
それはベトナムでも同じです。「男性なのだからこれをやりなさい」と言われることもある。Bboyの文化はもっと自由で平等だけど、伝統的な文化にはそれを貫くのが難しい一面もあります。普通の男性はお金や家族のことを考えなければならないので。
そういうことを小さな仕掛けとして、この作品の中にたくさん入れています。そこに共感する人もいれば、できない人もいると思います、でも、共感できなかった人にこそ「なぜこの作品を作ったのか」と聞きに来てほしい。そこからコミュニケーションは生まれますし、僕はそこを大切にしたいですね。

KATSUYA:電車の中の風景に触発されてコンセプトができたというのは面白いね。

3T:稽古場の行き帰りで電車に乗ると、いろいろな風景を見ることができて面白いですね。ベトナムだと女性に席を譲るのは普通の行為ですけど、日本でそうしたら断られてびっくりしました。ベトナムだとやさしいと思われる行為でも、日本でやると驚かれることもある。そういうところにも文化の違いを感じます。

KATSUYA:なるほどね。3Tの作品テーマの選択や、それをもとにしたダンスの構成はすごいと思います。だから自分としては振り付けのサポートに力を入れていて。そして、作品として整理できる部分もあると思うので、そこを客観的に見ながら整えていくのが自分の仕事かなと。3Tはゼロからすごい1を作ってくるので、それを彼と一緒に、2や3にしていくことに徹したい。

小杉:テーマを形にしていくためには、なにが重要だと思いますか。

3T:アイデアですね。アイデアがあればテーマを動きにすることができます。その点、このチームには素晴らしいダンサーが揃っているので、さまざまなアイデアが生まれるし、自分もよりしっかりしなくてはと思う。

インタビュー中の3T氏の写真

3T:そして、アイデアをお互いに理解することも重要です。全員が同じ言語を話すわけではないので、私の意図がうまく伝わらないこともあります。今回はベトナムと日本という二つの文化をどう融合させれば、表現として昇華させられるか迷いました。そこでさっき言った電車の風景が思い浮かんだので、電車の音もモチーフの一つに取り入れています。稽古場に電車で通ったおかげですね(笑)。

小杉:ベトナムや日本のダンスシーンについて、お二人が今思うのはどんなことでしょう。

3T:ヒップホップは生まれて40年くらいのカルチャーですが、世界中の人々からいろんな意見が出ているし、多くの人がヒップホップの成長を望んでいます。
当初アジアでは、ストリートカルチャーは‟変革を起こそうとする若者の文化”として、一般の人々に良い顔をされませんでした。でも、その時若者だった人々が大人になり、新しい世代をつくっていくにつれて、ストリートカルチャーの受け入れられ方も変わってきています。
今はたとえば、「KATSUYA、君はどうしてBboyなんてやっているんだ?」と周りの人に何度も聞かれる、というようなこともあるかもしれない。でも20年後には、誰もそんなことは聞かないんじゃないでしょうか。ダンサーが周りの人や生徒たちに「自分はBboyだ」と堂々と言える、そんなときがきっと来ると思う。

KATSUYA:そのためにも自分たちの下の世代に、ヒップホップの本質を伝えないとね。

3T:そう。ヒップホップというストリートカルチャーは常に変化し続けています。実際、20年前、中国では誰もヒップホップを踊っていなかった。でも今はBboyの大会もあって、数千人の子供たちが参加している。若い親世代が、子供たちをダンススクールに通わせるようになったんです。本当に、ヒップホップがおかれている環境はすごく変わってきた。
でも、ヒップホップの本質は、常に「内側」にあるんです。「魂」といってもいいかもしれない。人間の内側にある、本当の自分自身を見せること、純粋な魂を見せることが、常に変わらず、ヒップホップにおける一番大切なことだと思っています。日本には、今でもヒップホップに対してよくない顔をする人はいるの?

KATSUYA:たまにそういう人もいる。外で練習していると警察を呼ばれたり、夜遊びをしているように見られたりして、家に帰らないといけなくなることもあるし。でもどんどん認められてきているとは思う。

今、3Tが中国の状況を話しましたが、日本でもヒップホップを踊る子供がどんどん増えています。スイミングなどの習いごとと変わらないレベルで子供がダンスを始めている。なおかつブレイクダンスが2018年のユースオリンピックの正式種目になり、2024年のパリ・オリンピックの正式種目になった現状があって。オリンピックというわかりやすいゴールが生まれたことは、子供たちにとって夢がありますよね。ただ認知され普及していく中で、本質が薄れてしまう部分は正直あると思います。金メダルという結果はわかりやすいけど、そもそもヒップホップが目指す本質はそこではないですから。

インタビュー中の3T氏とKATUSYA氏の写真

KATSUYA:自分としてはヒップホップに携わる人間がその本質―ヒップホップ・イズ・自分ということを理解した上で、「自分はこうしたい」と考えていくことが大事だと思う。ただ、今の若い子たちが世界大会で結果を残しているように、夢を見せる…と言うと大げさですが、そういう存在になることも大事だと思うし。そこのバランスかな、と。

3T:だから僕らは若い世代の育成が重要だと思っているし、それは自分の役目だと思っている。誰かにやれと言われているからやっているのではなく、自分がやりたいからやっているんです。

小杉:ダンサーの育成というお話が出てきましたが、DDAに参加してアジアのダンサーに進化を感じる部分などはありますか。

3T:言い争いをしなくなりましたね(笑)。以前は自分たちのダンスが一番かっこいいと言って、ほかを批判してばかりだったけど…(笑)。今はほかのジャンルのダンスもリスペクトするようになりました。ヒップホップのコミュニティの中に留まらず、さまざまなジャンルのダンサーと話をして相手を知り、理解を深めるようになったんです。私自身も、現在ジャンルの垣根を越えて活動しています。そして、そんな先輩ダンサーたちの姿をみて、若い世代も、よりさまざまなダンススタイルにオープンになってきていると思います。

インタビュー中の3T氏の写真

3T:以前はエネルギーの90パーセントを会話というか、言い争いに使って、残りの10パーセントでダンスをしていたとすると、今は40パーセントを会話に使って、60パーセントでダンスをしている感じです。だから将来は20パーセントを会話に使って、80パーセントでダンスをするようになるかも(笑)。ただ、私にとって会話や議論はとても大事な行為です。みんながみんな、黙っているばかりではつまらないじゃないですか。ときには白熱した議論のぶつかりあいも必要だと思っています。ヒップホップはサバイバルなんですよ(笑)。

KATSUYA:確かにね。日本人には場が白熱するほどしゃべる人は少ないしね。

3T:それが日本の文化なんでしょう? そういえば前に、コールアウトの話をしたことがあるよね。

KATSUYA:コールアウトというのは、練習場所であろうとステージの裏で誰も見ていないような所であろうと、バトルしたい人間がいればその人を呼び出してダンスで対戦することです。

3T:僕も若い頃はバチバチしながらコールアウトでファイトしていました(笑)。でも今は、そこまでファイトはせずダンスをしています。昔はよく口論をしていたけど、今は相手が怒っていたら「踊ろうよ」と言う。中国でも韓国でも台湾でも、そういった相手とわかり合おうとする情景を見てきたし、それはヒップホップの進化だと思います。そうなってきたのには、インターネットの影響があるのかもしれません。今はみんながつながっているような感じがあるから。

小杉:KATSUYAさんは、アジアのダンサーに進化を感じる部分はありますか?

KATSUYA:DDAが始まってまだ5年ですからね。そこまでは大きくは変わってないんじゃないかというのが僕の正直な実感です。ダンサーだけでなく一般や行政の人たちが興味を持ってくれて、いろいろなことを一緒にできるという広がりは生まれているし、ダンサーのスキルの向上や、つながりに発展しているという面はありますけど。
ただ、今の日本の若いダンサーを見ていて、どんどん自分たちのやりたいようにやっている点はすごくいいと思う。自分たちの世代はいい意味で先輩たちが導いてくれた部分が大きかったけど、今の若い子たちは、もちろんそういう子もいるけど「自分はこうしたい」と考えて、積極的にいろいろな道を作ろうとしている。
そういう子がいると裾野が広がるし、とてもヒップホップ的ですよね。ヒップホップって、社会に対する天の邪鬼的要素を含んだ文化だし、だからこそ、ここまで大きくなっているのだと思います。

小杉:天の邪鬼的要素を含め、次世代にどうヒップホップの本質を伝えていくのか。そこが今後の育成に大きな影響を与えることになりそうですね。お二人とも本日はありがとうございました。

インタビュー終了後の3T氏とKATUSYA氏の写真

【2019年5月16日、都内スタジオにて】


インタビュアー:小杉 厚(こすぎ あつし)
ライター、編集者。舞台の公演パンフレットを中心に取材・編集に携わっている。 ダンス・ダンス・アジアでは、2016年よりインタビュー取材、公演パンフレット等広報物の編集を担当。

インタビュー撮影:引地信彦