「ASIA HUNDREDS(アジア・ハンドレッズ)」は、国際交流基金アジアセンターの文化事業に参画するアーティストなどのプロフェッショナルを、インタビューや講演会を通して紹介するシリーズです。 文化・芸術のキーパーソンたちのことばを日英両言語で発信し、アジアの「いま」をアーカイブすることで、アジア域内における文化交流の更なる活性化を目指しています。
古屋昌人(以下、古屋):本日は、JFAの技術委員会副委員長、国際委員会副委員長を務める小野剛さん、U-19日本代表監督、元マカオ代表監督、元シンガポールU-16代表監督の影山雅永さん、ベトナムU-15およびU-18女子代表監督の井尻明さん、モンゴルU-15およびU-18才女子代表監督の河本菜穂子さんをお迎えし、海外での指導経験をお持ちの皆様からさまざまなお話を伺えればと思います。まず、小野さんから「JFAとしての取り組み/アジア戦略」についてご紹介いただきたいと思います。
現地の国に寄り添った活動
小野剛(以下、小野):JFAは、長年国際サッカー連盟(FIFA)やアジアサッカー連盟(AFC)とともに、国際交流やアジア貢献に取り組んできました。アジア諸国を回りながらさまざまな活動を続けていく中で、「アジア全体のレベルを上げていく」ことを常々意識してきました。こうした活動は、アジアの中で強固な絆を形成すると思っています。
2014年に国際交流基金とJFA、Jリーグがパートナーシップを結んで開始したサッカー交流事業は、アジアの国際交流を大いに発展させました。国同士の交流だけではなく、クラブ単位の交流も増えています。特にJFAは、指導者ライセンスの保持者を長期に渡って海外に派遣し、世代別の代表チームやアカデミーの指導など、多岐に渡る活動を実施してきました。
こうしたアジアへの指導者派遣は、ヨーロッパ諸国も同じように実施していますが、彼らには確固たる指導方針があるため、それをそのままアジア各国でコピー&ペーストに近い形で導入してきたようです。これに対し、我々が指導者派遣をする際は、コピー&ペーストではなく、カスタムメイド、その国に寄り添って強化していこうと努力しています。現地の歴史や文化、伝統を学びながら、どういった指導方針で進めていくのか、一緒になって考えています。ありがたいことに、この日本の指導者養成システムを取り入れたいと言ってくれる国は増えており、他の国に負けない日本独自の国際貢献になっていると感じているところです。こうした指導者養成においては、我々の指導者派遣が終わった後も、それぞれの国で自分たちの力でやっていけるシステムを構築できるようサポートをしています。
もう一つ、インターナショナルコーチングコースというものを行っています。現在は技術委員長(テクニカルダイレクター)など各国の各専門分野のリーダーの人たちを日本に招き、アジアのサッカー発展のためのレクチャーやディスカッションを行っています。アジアの中でもトップの指導者が集まるので、素晴らしいディスカッションが繰り広げられています。また、このコースの卒業生はその経験を生かしそれぞれの国でサッカー協会のテクニカルダイレクター、GS(専務理事)、副会長といった要職に就いて活躍しています。アジアの国を訪れると、彼らはいつでも私たちを迎え入れてくれますし、すごく良い絆が出来ています。「真のWIN-WIN」を目指して、国際交流とアジア貢献を今後も進めていきたいと思っています。
小野:ここで、現在カンボジアサッカー協会のテクニカルダイレクターとして活動している小原さんからのメッセージが届いていますので紹介します。
小原一典:私は、2015年からJFAの派遣でカンボジア協会のテクニカルダイレクターをしております。カンボジアは、2023年にSEA Games(東南アジア競技大会)の開催を控えており、大会に向けてユースデベロップメントに力を入れています。2014年にナショナルアカデミーが開設され、私も教育省と協力してカンボジア各地に足を運んでコーチや選手の選考を行い、ようやく2018年にカンボジアの25県すべてにアカデミーを設立することができました。また、ユースリーグを2018年に立ち上げ、地方のアカデミー、ナショナルアカデミー、クラブ、ユースと徐々にユースデベロップメントが広がってきました。昨年からはコーチ育成にシフトして、地方のアカデミーやクラブのコーチのレベルアップに注力しています。昨年は、アジアセンターとJFAによる「ASIAN ELEVEN」の企画で、東南アジアのU-18選抜チームにカンボジアからも2名の選手が参加し、日本に遠征するなど、とても貴重な経験になりました。
Jヴィレッジで「JapanFun Cup」を開催
古屋:大きな視点で戦略的に事業、活動を展開されていることがわかりました。また、小原さんのように実際に現場で活動されている方についても改めて認識できました。
アジアセンターは、JFAとJリーグとの協力・連携の下、海外への指導者派遣、現地のサッカー連盟の活動支援、現地の指導者育成のための研修、日本への招へいなどを行ってきました。こうした交流事業の一例として、2019年6月に福島県にあるナショナルトレーニングセンター「Jヴィレッジ」で、U-18東南アジア選抜とU-18東北選抜による「JapanFun Cup/響きあうアジア2019」を開催しました。「ASIAN ELEVEN」と名付けられた連合チームは、ASEAN10か国と東ティモールの計11か国から2名ずつ選手にご参加いただき、結成しました。お互いに初対面でチームを組むことになった他のASEAN諸国の選手たちとも、合宿で寝食をともにするなかで、少しずつ打ち解けていく様子がとても印象的でした。また、アジア各国から集まった選手たちは、地元の学校を訪問するなど、日本文化を体験する機会も得ることができました。
こうした合宿を経て、2019年6月22日に「JapanFun Cup」当日を迎えました。会場にはたくさんの方々が応援に来てくださり、選手も心なしか少し緊張気味でした。当日はボーカルグループのLittle Glee Monsterさんが応援歌「I BELIEVE」をハーフタイムに歌ってくださいました。試合はPK戦にもつれ込む熱戦で、最後は「ASIAN ELEVEN」が勝利を収める形で幕を閉じました。 この試合に合わせて、東京藝術大学教授の日比野克彦さんと、国際試合で対戦する双方の国を思い描き、ナショナルフラッグを一枚の布の上で合わせて一つにする「マッチフラッグプロジェクト」を実施しました。また「ASIAN ELEVEN」のユニフォームは、増田セバスチャンさんがデザインしてくださいました。東南アジアの勢いや元気さ、ダイナミックさが感じられるユニフォームで、このユニフォームを着用した選手の皆さんはピッチで元気に躍動していました。
その後、同年11月には、タイのバンコクで、16歳以下の「ASIAN ELEVEN」とU-16タイ代表チームの親善試合「The Japan Foundation Bangkok Cup」を実施しました。この時は、日本の選手が2名「ASIAN ELEVEN」連合チームに参加しました。こういった親善試合は一つの例ですが、これまでに実施してきた現地での選手の指導、指導者の指導、育成などが、さまざまな成果として現れてきているように感じています。
小野:「ASIAN ELEVEN」の選手たちの表情を見ているとワクワクしてきます。あの年代で築いた絆は、大人になっても必ずどこかで役立ってくるのではないかと思います。続いて、2021年のU-20 FIFAワールドカップを目指すU-19日本代表監督の影山さんにお話を伺いたいと思います。
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