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オンライン・アジアセンター寺子屋第4回――日本とアジアのサッカーのこれから~サッカー指導者の長期派遣事業から考える~

Report / Asia Hundreds

コミュニケーションから生まれる信頼関係

河本菜穂子(以下、河本):モンゴルの選手たちは、フィジカル的に強くてパワーがあります。また1対1にすごくこだわりを持っていて、対人に力強いところが特徴だと思っています。

小野:なるほど。そんな力強いモンゴル人選手を育てていくための育成プランはありますか。

河本:もう少しアジリティ(敏捷性)をスキルアップさせることができれば、個人の能力をもう少し引き出せると思っています。また、日本人の良さであるチームワークを教えることができれば、すごく良くなると思います。

小野:アシスタントコーチは現地のモンゴル人のスタッフだと思いますが、協力しながら一生懸命やっていると聞いています。どんなことを心がけているのでしょうか。

河本:私の下には3人の女性アシスタントコーチがいます。トレーニング前に私が英語でメニューを説明し、彼女たちもそれをモンゴル語と英語で理解して、スムーズにトレーニングできるように準備しています。日々トレーニングをしていく中で、選手の成長を間近で見ることができ、とてもやりがいを感じております。

話をする河本氏の写真

小野:それでは次に、井尻さんに、ベトナムにおける指導者養成の取組みについて、少しお話しいただきたいと思います。

井尻:ベトナムはサッカーコーチがとても少ないので、監督とコーチ、指導者育成、普及まで一貫してこなせるという部分は我々のメリットだと感じています。ベトナムでは指導者養成のシステムがほとんど構築されていませんので、少しでもその部分を伝えていければと、日々活動しております。まず女性指導者を対象に、指導者講習会を2日間行いました。女性指導者にそういった講習会をするのはベトナムでは初めてだったので、とても喜んでいただけました。もう一つは、C級ライセンスコースです。ベトナムでは今までAFCから派遣していただいたインストラクターの方々に講習会を開いてもらっていたのですが、今回は我々日本人でベトナム国内独自のC級ライセンスのための講習会を開催しました。

小野:影山さんもAFCでいろんな活動をしていますよね。アジアにおけるユースの育成や指導者の養成に関して変化は感じますか。

影山:指導者が大きな責任を持っていることに多くの国が気づいてきたと思います。私が指導者として赴任していたシンガポールは、非常にシステマチックにそのあたりを整えていたのですが、マカオでは指導者の能力をあげるための施策はなかなか出来ませんでした。しかし皆意欲的で私のアシスタントや各年代の監督、コーチなどは、他の仕事を持っていたので、「一緒に勉強会をしよう」と言いながらも時間がなかったのですが、お昼に飲茶を食べながらディスカッションしていたのを思い出します。

井尻:私は普段はアカデミー選手が住んでいる寮で生活していますが、寝食を共にする時間は大切で、そこでコミュニケーションをとるようにしています。

河本:私も井尻さんと同じように、現地のものを一緒に食べたりしながら、コミュニケーションを取っています。モンゴルサッカー連盟の中に食堂があり、そこで協会の方やアシスタントコーチと一緒に食事しています。

小野:河本さんは、モンゴルの前にモルディブの代表監督をされていましたよね。女性として思い切って飛び込んだチャレンジの源は何だったのでしょうか。

河本:私はもともと海外志向が強く、人がやっていないことにチャレンジしたい気持ちがありました。自分の力がどのくらい通用するのか、また現地へ行って私の力で何かを変えることができたら、それは自分の成長にもなるとの思いから、モルディブに赴きました。モルディブでは、男性のアシスタントコーチとゴールキーパーコーチが2人いたのですが、元代表選手たちでプライドを持ちそれぞれ意見を持たれていたので、何度も話し合いを重ねてチームスタッフが一丸となることで、選手がついていきやすい環境を整えました。

ディスカッションの写真

小野:一緒になって頑張っていこうと思えるかどうかが本当に大事で、そこは我々の国際貢献で一番大事にしたいところです。文化や国民性の違いに関して、感じることはありますか。

井尻:例えば、ベトナムでは人前で注意されるとプライドが傷つくので、何かを伝えるときには1対1で伝えるように心がけていました。またベトナム人は負けん気が強く、ミニゲームの勝敗でも一喜一憂しますし、負けた方は涙を流すくらい悔しがることもあります。ですので、うまく刺激を与えながらトレーニングできれば、成長スピードが一段と上がるので、いろいろと試しています。

影山:やはり、その国の選手たちがどのような感性を持っていて、どんないいところがあるのかをまず理解する。そういうところから指導は始まっていますよね。それがなければ、チーム作りはできないと思います。

一歩を踏み出す勇気

小野:ここで質問が来ています。日本に帰りたいと思ったことはありますか。

河本:日本食が恋しくなったときに、日本に帰りたいと思うことはありますね。

影山:シンガポールで選手が5人しかトレーニングに来なかったときは、本当に日本に帰りたかったですね。ただ、食事の面や文化という面では、なんでもチャレンジをして自分の思考を変えていくことが上手くできたと思います。

井尻:家族を日本に残して単身赴任しているのですが、やはり子どもに会いたいと思うことはありますね。ただ、一昔前と違って今はリモートでコミュニケーションが取れるので、うまく気持ちを紛らわしながらやっています。海外で一生懸命頑張っている姿を家族に見せるということが、一つのやり方なのかなと思っています。

小野:最後の質問です。海外でチャレンジするためにはどのような準備をしておけばいいのでしょうか。

影山:私自身は、まず行ってみようというタイプの人間なので、いろんな心配をするより、まずは行ってみることが大事だと思います。

井尻:私も実際に動いてみることが大切だと思っています。強いて言えば予防接種でしょうか。海外では狂犬病が危ないので、狂犬病のワクチンは打っておいた方がいいと思います。

河本:まず一歩踏み出すことが大切です。現地で学ぶこともたくさんありますし、特に女性の指導者はなかなか海外に行けないと思っている方が多いですが、機会を待っていたらいつまでたっても出られません。まずは一歩を踏み出して、外に出てみるのがいいと思います。

小野:一歩踏み出す勇気が、なによりもこの活動を支えているんだと改めて感じました。たとえその国が日本の環境と違ったとしても、その経験は素晴らしいものになります。今海外に挑戦したいと思っている方がいたら、ぜひJFAに問い合わせてみてください。JFAとしてもそのような希望や夢のある人たちと一緒になって歩んでいきたいと思います。

古屋:ありがとうございました。大変興味深いお話を伺えたと思います。

イベント時の集合写真

【アーカイブ映像】


会場撮影:佐藤 基