国際フォーラム「Innovative City Forum 2018 アジアセンターセッション」開催レポート

Symposium / Innovative City Forum 2018 国際交流基金アジアセンターセッション

Wrap-up】佐々木芽生、土谷貞雄、トラン・アン・ユン、ドゥアンチャイ・ロータナワニット、ポポ・ダネス、チャットポン・チューンルディモン

Wrap-upで話される登壇者たちの写真1
Photo@Tatsuyuki Tayama

佐々木:私も目から鱗だったんですが、「アジアからの幸せ」を考えたときに、欠かせないのが「人のつながり」だと再認識しました。今までボンヤリと感じていたことですが、「人とのつながり」がアジアの幸せの根幹にあるということを、今日のセッションで勉強しました。
私は普段、ニューヨークで仕事をしていて、アメリカの西海岸のスタッフとも仕事をしますが、打合せは全て電話かスカイプです。全員がNYに住んでいても、皆で集まって打合せすることは殆どないのです。5年前ぐらいまでは顔を合わせることはありましたが、今はコンファレンスコールやスカイプで済ませてしまいます。会って打合せするよりも、とにかく時間を節約しましょうとなります。このまま行くと生身の人間同士のコミュニケーションはテクノロジーの進化とともに、失われる一方になるのではないかと感じています。

土谷:確かに。アジアの良さや魅力って、人とのつながりが楽しかったり憧れたりするけれど、一方でその魅力が失われつつあるという現実もあります。だから、無くならないように、今のうちに見に行った方がいいよ!というのはありますね。本日参加して、日本とアジアの他の国々では、「食べる」ことや「眠る」ことでも、その境界線がちょっとずつ違うという発見がありました。

佐々木:テクノロジーが進化する中で、人間の幸せを含め考えていかないと、テクノロジーに私たちがコントロールされてしまうかもしれません。私は、今すでに携帯電話に人生をコントロールされているという感覚があります。また、私たちの上の世代が足踏みしているのは、テクノロジーそのものではなく、進化のスピードだと思います。進化の速度がどんどん速くなっていく、そのスピード感について行けないと感じているのではないでしょうか。

土谷:今回のICFは、前半2日間でイノベーションとテクノロジーを扱って、後半に東南アジアから見ることの意義を話しましたが、とても近い将来、この両者が繋がる時代になると思います。テクノロジーは毎日、急速に変わっています。

トラン:最終的に「幸福」というテーマに対し、年齢や国籍が異なってくるので、一番重要なのは、「何が自分を幸せにするか?」でしょう。私たち一人ひとりが、テクノロジーも使いながら、自らの答えを見出すのです。自分にとっての「幸福」は何なのか? 日本に住んで、地域の中でどういった「幸福感」があるのか、各自で見つける必要があります。

ドゥアンチャイ:「幸せ」は来て、すぐに飛び去っていきます。ささやかな小さなことでも、自分が幸せだと思うことなど、一瞬一瞬の気持ちを味わっていることが大切だと思います。

土谷:その通りですね。「私にとっての幸せは何か」を考えることが重要で、様々なスピーカーからこういう見方があるのだ、という礎石(cornerstone)がたくさん降ってきたので、ぜひ、皆さんのヒントになればと思います。「幸せ」は遠くにある訳ではなくて、目の前にあるけど見えないのですよね。

佐々木:目の前にある幸せは、一番見えにくいかもしれません。便利とか効率性を追求した結果、機械が人間にとって代わっていくと、沢山の人にとって時間が余ります。1日の大半を占める仕事がなくなったときに、ベーシックインカムなどの制度が取り入れられて仕事をしなくても、ある程度の生活ができるような社会になるかもしれません。では、仕事をしなくてよくなった分、私たちは何のために生きていくのかが大きな課題となるのではないでしょうか。「幸せとは何か」「生きる意味は何か」は、ますます大きく問われるようになると思います。

土谷:僕たちは、食べたいだけ食べて眠りたいだけ眠って欲望のままに生きていたいと思う一方で、日常の規範が必要な気がします。「美意識」とでもいうのかもしれない。これをトランさんに聞きたいです。「美意識についてどう考えていますか?」なぜなら、トランさんは映画と暮らしが掛け離れていない気がします。映画は、その時代の暮らしのイメージを形作っていると思います。幸せは何かを問いかける同時代的美意識を表現していると感じるのですが、いかがですか?

トラン:そうですね、私は映画監督でラッキーだと思っていますよ。とはいえ、映画監督でいるということは、私にとってそれほど重要ではないのです。なぜなら、「映画を制作している」という行為自体が、とても嬉しいことだからです。多くの喜びになっています。充実感に包まれます。他は、おまけみたいなものです。美意識は、そこら中にあると思います。台本を書いた時から、これは本当に大変だなと緊張感を感じるシーンでも、「カット! 撮影OK」と言ったときにスタッフ全員が笑っていて、緊張が喜びに変わります。この満足感はとても大きいものです。

チャットポン:私もちょっと話してもいいですか? 悲しみや苦しみやメランコリーがあってこそ「幸福」がわかるので、「幸福」だけを抽出して話したら、それは不自然な幸せになると思います。悲しさや他の感情とともにあるのが、本物の幸福ではないでしょうか。そこが重要だと思います。

 Wrap-upで話される登壇者たちの写真2
Photo@Tatsuyuki Tayama

トラン:そうですね。それは芸術と関連していると思います。芸術というのは人生の表現です。人生は経験しかできませんが、芸術ではその表現ができます。意味を持たせることができます。映画を見に行くと、涙が流れても幸せです。それはスクリーンを通じて人生の表現と繋がっているからです。

土谷:「幸せ」がテーマですが、「幸せ」を語ろうとすると答えは逃げていく気がしますね。「幸せ」以外をみていくことが、逆説的に「幸せ」は何かを突き詰めていくと思います。

ポポ:まずは、自分たちがどんな尺度を持っているのかを知ることですね。自分にとっての幸せは何か? 多くの人の幸せは、周りの環境や尺度に影響されています。「幸せの尺度」や「基準」が他者のものに置き換わってしまう危険性がありますね。だからこそ、「自分の尺度」を持つことが極めて大切だと思います。

佐々木:皆さん、どうか本日のトークからヒントを得て、幸せの「小さなカケラ」をお持ち帰りいただければと思います。

閉会挨拶

鈴木 勉 Ben Suzuki(国際交流基金・アジアセンター)
南條史生 Fumio Nanjo(森美術館館長)

Technology Oriented(テクノロジー起点)」から「Human Oriented(人間起点)」へ

鈴木:お話にもありましたが、最初は「テクノロジー・オリエンテッド(技術起点)」だったものが最後には、だんだんと「ヒューマン・オリエンテッド(人間起点)」になってきました。アジアセンターセッションでは、人間を起点に考察してみました。本日のプログラム・コミッティーの南條館長から一言いただけますか。

南條:6年前にこのイベントを始めましたが、元々のICFは、様々な人と対話することを目的に始まりました。科学技術、アート、デザイン、建築、都市計画に携わる人々の対話を始めようとして開始したわけです。その学際的であるというのが大変重要で、イノベーションは科学技術の観点から必要だと思われてきました。テクノロジー系の人たちは比較的、楽観的でしたが、昨年以降、楽観視から少し懐疑的な見方が増えてきました。そこで、「幸せのためのイノベーション」、特に「幸せとは何か?」ということについて、様々な視点から提案がありました。「幸せのためのイノベーション」とは何なのか。技術の進歩によって、「幸せ」がもたらされないのであれば、その技術の使い方は間違いかもしれません。そういった視点がもたらされたように思います。
今年の本セッションはとても重要でした。議論の転換点に達したのだと思います。アジアからのフィードバックが大いに議論の手助けになりました。登壇者、関係者の皆さん、本当にありがとうございました。また、お会いできることを楽しみにしています。

体験展示

「人類進化ベッド」で寝転ぶ来場者たちの写真
Photo@Tatsuyuki Tayama 

今回はICFアジアセンターセッション初の試みとして、セッションテーマの「眠り」に関連し、体験展示を行いました。会場の奥に、「森のベッド職人」とも言われ1年365日、毎日ベッドを作るといわれるチンパンジーのベッドをヒントに研究者やデザイナー、寝具メーカーが共同で開発した「人類進化ベッド」を体験いただけるコーナーを設けました。カンファレンスで話すことに加え、体験するコーナーを設け、ご来場者には多角的にセッションテーマを感じていただきました。

協力
人類進化ベッド:株式会社イワタ
チンパンジー写真提供:座馬 耕一郎
パネル展示ほか:NPO法人 睡眠文化研究会

当日のプログラム、登壇者一覧等の詳細は下記ページをご覧ください。
Innovative City Forum 2018 国際交流基金アジアセンターセッション

当日は長時間のフォーラムでしたが、最後まで多くの方にご聴講いただきありがとうございました。事後アンケートでは、回答者の89%から「とても有意義」または「有意義」だったとの声をいただきました。来年度の「Innovative City Forum 2019」でもお会いできることを楽しみにしております。

会場の写真

関連情報

Innovative City Forum 公式サイト

写真:田山 達之/鰐部 春雄
編集:藤重 菜香子(国際交流基金アジアセンター)