菊地成孔×片倉真由子対談 ジャズはなぜ人を「興奮」させるのか?

Interview / Asian Youth Jazz Orchestra

東南アジアはどの国も音楽と生活が密接に結びついていて、音楽に対して素直に喜ぶ姿が新鮮でした。(片倉)

―では、『AYJO』について聞かせてください。片倉さんはディレクターとしてオーケストラのオーディションや合宿にも参加されて、秋に行われた東南アジア公演にも同行されたそうですが、どんなことを感じられましたか?

片倉:アジアのお客さんはみんなすごく音楽が好きで、素直に喜ぶし、すごく興奮していて。それはジャズだからっていうよりも、「音楽」だからっていう感じがしました。向こうは生活のなかに伝統音楽が密接に根づいているんですよね。オーディションのときに、「オーケストラの一員になったらなにをしたいですか?」って聞くと、結構な数の人が「自分の国の伝統音楽をみんなに紹介したい」って言うんですよ。その感覚は私にはなかった。

―特にジャズが盛んな国とかってあるんですか?

片倉:タイの現在の国王はジャズが好きで、自分でサックスも吹くし、ベニー・グッドマン(1909-1986年、クラリネット奏者)と交流もあったそうです。でもどこの国でも大学できちんとしたジャズの教育があり、上手い人が多いですね。どの国も音楽と生活が密接に結びついていて、音楽に対して素直に喜ぶ姿が新鮮でした。

菊地:「ジャパンクール」って言われるぐらいだし、言ってしまえば、日本のほうがおかしいんですよね。ポーカーフェイスだし、クールすぎる。いまちょっとグダってますけど、日本は文化的にも経済的にもアジアのなかで1番経済発展した国なんで、デカダンス(退廃的)っていうか、それもジャパンクールなんですよね。それに対して、東南アジアは赤道に近いだけあって……って、下手な落語家みたいですけど、ホットですよ、ものすごく。片倉さんおっしゃったように、伝統音楽が身近にあって、誇りに思っているからこそ、伝えたいと思う。

片倉:ホントにそうだと思います。タイの参加者が合宿で日本に来たときに、ジャズクラブに連れて行ったんですけど、すごく感激していました。タイではみんなが雑談しているなかでジャズを演奏することが多いそうなんですが、日本のジャズクラブではお客さんが集中してミュージシャンの演奏を聴いている。そのことに対してとても驚いていました。そういう意味では、日本人はすごく恵まれていますよね。

インタビューを受ける片倉真由子氏の写真2

 

菊地:日本でも「私たちの民謡をジャズ風にアレンジしてみました」っていうケースは多い気がするんだけど、「心の底からそれを世界に発信したいと思ってる?」って、少し思っちゃう。「これウケるかも?」ってやってるんじゃないかって、ゲスな憶測がどうしても湧いちゃうんだけど(笑)、東南アジアの人たちはガチだと思います。

インタビューを受ける菊地成孔氏の写真2

 

―そんな日本と東南アジアの若手ジャズミュージシャンが集まった『AYJO』の日本公演が1月に行われるのですが、菊地さんから見て、どんな楽しみ方があると思われますか?

菊地:「日本人あるある」で言うと、ホットドッグの早食いとか、ヒップホップのダンスとか、「これ、日本人は絶対勝てないでしょ」っていうことでも、すごく一生懸命取り組んで、1位になっちゃうんですよね。バークリー音楽大学も一時期上手い人は全員日本人だったりして、日本人って集中するとそれぐらいになっちゃう。もちろん、日本人もアジア人なわけで、その感じがタイとかベトナムとかインドネシアはどうなのかなっていう、そこは気になるところですね。

―当日はどんな曲目が演奏されるのでしょうか?

片倉:メイン音楽ディレクターを担当するトロンボーン奏者の松本治さんが、ほとんどの楽曲のアレンジを行っています。『AYJO』のメンバーが作った曲もあるし、私の曲もあるし、そういったオリジナル曲を松本さんが『AYJO』のための楽曲として作り上げました。素晴らしいです。もちろん松本さんの曲もあります。あとはデューク・エリントン(1899-1974年、ジャズピアニスト)の“Far East Suite”(邦題“極東組曲”)っていう、エリントンがアジアの情景から影響を受けて作ったアルバムがあって、そのなかからも何曲か。ぜひ多くの人に聴きに来ていただきたいと思います。