今の時代精神を追うことは、私のプロフェッショナルとしての職務です。(フクエン)
藤原:タン・フクエンさん、あなたはインディペンデントのキュレーターとして、いつも世界の様々な都市を飛び回っていますね。まずは、普段どこでどのようなお仕事をされているのか、お聞きしたいです。
フクエン:私は自分自身をドラマトゥルク、プロデューサー、そしてキュレーターであると考えていて、アジアとヨーロッパにおける視覚芸術とパフォーマンスの領域で仕事をしています。インディペンデント・アート・ワーカーといっていいのかもしれません。その中で色々なアーティストや文化芸術機関と連携しながら、プロジェクトを進めています。
藤原:様々なアーティストとあなたの繋がりは、とても興味深いものです。しかしまずはシンプルな質問をさせてください。今はどこを拠点にしていますか?
フクエン:私はシンガポール出身ですが、2004年以降、バンコクを拠点に活動しています。ですが、同時に色々な場所に出向き、そこで生活もしています。旅している時間は多いですね。
藤原:常に移動しているのですね。旅する仕事人、ノマド的ですね。
フクエン:そう、ノマド的です。拠点はありますが。
タン・フクエン
藤原:バンコクには、1年のうちどの程度いるのですか? バンコクで過ごす期間が多いのか、それともやはり移動している期間が多いのでしょうか?
フクエン:どうでしょうね。ここ半年は、ほんの3週間ほどしかいなかったですね。2015年の前半は3か月ほどバンコクにいました。なので、3週間から3か月の間、といったところでしょうか。
藤原:なるほど。どの都市や地域で仕事をされてきましたか?
フクエン:東南アジアの様々な地域を移動していることが多いのは確かです。シンガポールもそのうちのひとつですね。プロデューサーそしてキュレーターとして、いつも情報収集に努め、様々な人との出会いを蓄積しながら、何かが起きた時には、その地域へ移動しています。私が注視しているのは、現代文化が造り出される広大な地平のようなものなのです。それはパフォーミング・アーツだけでなく、インディペンデント映画、音楽、そして視覚芸術も含む、広範囲の分野に及びます。
藤原:「何かが起きた時」というのは?
フクエン:例えば、私が興味を持っていたり、名前を聞いたことがあったり、気になっているアーティストの演劇やプロダクションがある時。あるいは、私の研究分野に関連していて知識を深めるために重要なフェスティバル、ビエンナーレ、展覧会などがある時です。
それは東南アジアに限ったことではなく、私は同時に、同僚達の仕事を通して、ヨーロッパで現在起こっていることも気にしています。今の時代精神を追うことは私のプロフェッショナルとしての職務だと思うので、常に意識していることです。人々、そしてアーティスト達は、今何を提案しているのか、今日の様々な状況について私達に訴える作品やプロジェクトにはどのようなものがあるのか。そのようなことを追うようにしています。
また、南アメリカやアフリカで起きていることにも注意し、常に自身の知識をアップデートするよう心がけています。多方面にあまり手を伸ばすのも物理的には難しいのですが、ネットワークを通して、常に最新情報を得るようにしています。
藤原ちから
藤原:日本の舞台芸術において、フクエンさんと同じようなやり方で国際的に活躍しているキュレーターはほとんどいないと思うのです。というのは、フクエンさんは、ある特定の国に限ることなく活動の場をお持ちですよね。多国籍のアーティストと協働して作品を創造し、時にはアーティスト同士を結びつけることもされていますが、そのためには膨大な知識、情報、そしてネットワークが必要だと思います。一体どのように多数のプロジェクトを世界各地で同時並行に進めていらっしゃるのでしょうか。
フクエン:私は一個人として独立して行動しているので、同じように自ら信念を持って行動し、明確な問題設定を持ったアーティストに惹かれます。やはり、共感できるか否かで、一緒に仕事をするアーティストや参加するプロジェクトを選んでいます。プロジェクトを取り上げる最良の時期を見計らって、それを仕上げてゆくためには、自律性が必要ですね。常に情報を「収集」し続けているのは、ある意味合いや枠組み、そしてアイディアなどが、いつ実現を呼びかけてくるか予想できないからです。プロジェクトを選択していくプロセスは、恣意的に見えて、実はそうではないのです。私は、直感を通じて思考していますし、自分が解こうとしている哲学的な問いも、選択に影響しているといえます。ですので、私と似たような仕事や問いに従ずるアーティストと出会えば、一緒に何らかのプロジェクトに乗り出すと思います。
フクエン:「マッチ・メイキング」の方法は色々です。ひとつは、ブラインド・デート、知り合いなどの紹介がありますね。他方で、自分と似たような価値観や考えを持っている人と出会う場合もあります。時には合致しない「マッチ・メイキング」もあります。まるでりんごとオレンジの組み合わせのように。どのようにその連携が展開していくのか、結果が予測できなかったり。
私は「流れ―関係性がどのように形成されてゆき、そしてどのように様々な考えや文化的実践、そして文脈が、建設的に共鳴し合い、時に反動し合うか―」に興味があります。ですので、全ての「マッチ・メイキング」が成功するわけではありません。実験のようなもので、同じように好奇心を持ち、未知の領域に足を踏み入れることを恐れないアーティストと仕事をしていきたいと思っています。
私が提案または実施してきた「マッチ・メイキング」では、プロジェクトの条件は参加者に明確に提示します。時間面、資金面でのリソースや制限は常に意識していますね。参加は強制せず、逆に協同や連携の枠組みを提案し、その枠組みの中で彼らが自発的にプロジェクトを遂行できるようにしています。もしも解決できないような危機や大きな障害、危険がおよぶ可能性がある場合は、プロデューサーとしてもちろん仲介に入ります。
藤原:昨年のTPAM 2015に私が自分の作品「演劇クエスト」で参加した時、あなたはフィリピンのフェスティバル・ディレクターであるJKアニコチェとサラ・サラザールについて、「すぐに彼らに会って話をしなさい」とアドバイスして下さいました。そして実際に彼らと会い、フィリピンのフェスティバルに招待していただいたわけです。あなたのおかげですね。
フクエン:そう、藤原さんも私の「マッチ・メイキング」の犠牲者ですね(笑)。