タイ×フィリピン×インドネシア気鋭監督たちが語る映画づくり

Interview / 第28回東京国際映画祭

3人が映画監督への道を切り開いたきっかけ

――お三方は、必ずしも最初から映画制作を志望されていなかったり、様々なルートで映画制作の世界に飛び込んでいますが、その中で影響を受けてきた人物はいますか?また、自身の制作活動の中で大事にしていることを教えてください。

インタビュー中の集合写真1

バスベス:私は映画学校には行かずに独学で映画制作を学んだので、師匠のような存在はいませんが、コミュニケーション科学を専攻していた頃にあるドキュメンタリー監督と出会ったのが一つのきっかけになりました。彼に雇われて手伝うことになって、当時彼はまだ有名ではなかったので、お金はたくさん払えないけどフィルムやカメラなどの機材を好きなように使っていいと言われていました。それでも当時は映画製作のことは考えていなかったのですが、2006年にガリン・ヌグロホ監督によってアジア映画のプロモーションのための映画祭が設立されて、映画業界からいろんな人たちがジョグジャカルタに集まったのですが、そこで初めてインディーズ映画など、様々な映画があることを知り、様々な視点で映画を捉えるきっかけになりました。また、僕の二本目の監督作のプロデューサーだったハヌン・ブラマンチョ氏やドキュメンタリー監督のダルビン・ヌグラハ氏にもいろんな映画の捉え方を学んだので、この3人は私の友人であり、映画を教えてくれた方々でもあります。3人から学んだのは、映画というのは人と人を結ぶ絆になるということ。だから僕にとって映画製作というのはキャリアの一つではなく、自分の思いを表現するためのメディアなのです。有名監督であればもっと大きな予算がついた映画を作れるのだろうけど、自分の表現したいものを作っていくことが、映画を作る人間として一番大事だと思います。

ジャトゥランラッサミー:私は大学で映画を学びましたが、そこで得たものは特に何もありませんでした。一方、自分が観た映画が、好き嫌いは別として、自然と自分の映画の先生になりました。特に好きなのはチャップリン監督の『街の灯』で、これを初めて観たときにコメディだけどロマンチックにも社会風刺にもなれるという、いろいろな映画の見方を教わりました。日本の監督で好きなのは、小津安二郎監督や今村昌平監督など、ほかにもたくさんいます。最近の自分の映画はというと、自分本位の作り方になってきました。映画を使って自身の人生で考えてきたことの記憶、それから最近は人生に対する疑問を記録するようになりました。自分の言いたいことだけを伝えるだけでなく、疑問点を年齢に合わせてステップバイステップで自分がどう解決していくか、その過程を映画製作で描いているのです。
インタビュー中の集合写真2

サンタ・アナ:僕も大学では心理学を専攻していましたが、元々書くことに興味があり、詩を書いていました。卒業後にいろんな映画監督の講義をタダで聞く機会があり、女性監督のマリルー・ディアス=アバヤ氏などいろんなフィリピン人監督の話から映画を学びました。それでやっぱり映像に関わる仕事がしたいと思うようになり、テレビの脚本を書く仕事を始めたのですが、その中では達成感を感じることは一度もありませんでした。その頃フィリピンではオルタナティブ映画というものが出てきて、ブリランテ・メンドーサ監督らが立ち上がって力をつけていったのですが、彼の初長編作『マニラ・デイドリーム』(05/Masahista)を観てものすごい衝撃を受けたことをよく覚えています。その後、2005年に「第三次黄金世代」と言われるフィリピン映画のリバイバルの波が来て、またデジタルシネマの普及により、カメラさえ持っていれば若者も自分の撮りたいものが撮れるという環境になる中で、私はもっと映画祭に参加していきたいと強く思うようになりました。

僕にとって恩師というか師匠の一人がジェフリー・ジェトゥリアン監督ですが、彼の監督作で私が脚本を手がけた『クリスマス・イブ』が2011年のTIFFに出品され、初めて映画祭を体験しました。そのときに賞もいただいた経験がとても大きな刺激となって、自分は絶対にここに戻ってくるんだという思いでしたが、今回こうして自分の作品をもってまたTIFFに参加することができて感謝の気持ちでいっぱいです。また、メンドーサ監督も僕にとって師匠ですし、フィリピンの有名脚本家で数々の賞も獲っているアルマンダ・ラオにも大きな影響を受けています。特に、メンドーサ監督からは映画と土地の関係、土地で生活している人々を描くことの重要性を多く学びました。キャラクターありきではなく、自分が育った土地の中でどのように影響を受け、人としてどのように変わってきたのかを描くことを学びました。その中で、私は中流階級の出身なので、それを題材にして映画を作っていこうと考え、貧困だけに注目するのではなく、中流階級の関わり方や、自分がどんなコミュニケーションやメッセージを表現したいのかを考えるようになりました。中流階級というのは教育を受けており、法律や政治に対して力を備えているので、社会的責任を担っていくべき存在だと思いますし、彼らの目線で映画を作ることが一番大事だと思っています。フィリピン映画では力のない弱者を題材とすることが多いですが、私はそうではなく、中流階級が持つ力で何かを変えられるという目線で映画を作っていきたいと思っています。
インタビュー中の集合写真3

(2015年10月28日)

作品情報

作品タイトル 『スナップ』
原題 SA-NAP
監督 コンデート・ジャトゥランラッサミー
製作年 2015年
製作国 タイ
詳細 http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=29
コピーライト (c)TrueVisions Group Co., Ltd.
作品タイトル 『三日月』
原題 Crescent Moon
監督 イスマイル・バスベス
製作年 2015年
製作国 インドネシア
詳細 http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=35
作品タイトル 『バロットの大地』
原題 Balut Country
監督 ポール・サンタ・アナ
製作年 2015年
製作国 フィリピン
詳細 http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=169
コピーライト (c)Solar Entertainment Corporation and Center Stage Productions