台湾には旅行で何度か来た事はありますが、一つの場所に留まって文化を観察した事はありませんでした。それが長期に渡り滞在しながら定点観察できた事で、見えて来たものがあります。
「先生と生徒の距離感」の近さです。
日本では普通生徒は「山本先生」と苗字で呼称するのに対し、台湾では「勝巳先生」と名前で呼称するのがスタンダードのようです。
「勝巳」と下の名前で生徒が先生を呼び捨てにしているケースもあり、驚いて台湾人の先生に尋ねると親密度が高い表れだといい、特に気に留めていない様子でした。当然、先生が授業で生徒を指名する際も名前で呼称します。
もっと驚いたのがパーソナルスペースが近い事です。
記念写真を撮る時、生徒の体が触れるかどうかギリギリの位置まで寄ってくるし、写真も真面目に構えてというよりは、ピースをしたり、ポーズをまじえてノリよく撮影する事に重きを置いています。
この距離感に最初は戸惑いを覚えました。
馴れ馴れしくするのも違うし、威厳ある感じにするのも違うし。手探り状態でスタートしました。心がけたのは教科書、黒板に書かれた文字を発声する時、なるべく生徒1人1人の顔を見る事。
私の日本語授業で主な仕事はネイティブとして発話・発音や生徒の会話練習の相手を務める事なので、生徒達が回答に困っている時は口の形で発音のヒントを与えたりすることで、生徒との交流を少しずつ深めて行きました。
一ヶ月くらい過ぎて、廊下で「やまもと」と大きな声で呼ばれ、驚いて振り返ると生徒が元気よく手を振っていました。
この瞬間、晴れの日も、雨の日も一緒に過ごして来た中で、ようやく生徒の心まで虹がかかり、「先生」と認められたのだなと思いながら、日本ではありえないばつの悪さからくる苦笑いを嚙み殺し、笑顔で手を振り返しました。
残りの派遣期間、より多くの生徒に「やまもと」と呼ばれ、日本に更なる興味・関心を持ってもらえるよう頑張ろうと自分自身に誓いました。