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広がる共感の輪

「リアルなふれあいから感じた日本」が、学ぶ意欲に

タイ
マリウォン・ナッターポーンさん

アニメや映画がきっかけで、日本に興味を持つ

中学生の頃から、日本のアニメや映画に興味があったというマリウォンさん。特に好きだったのは少女漫画だった。「インターネットで日本のアニメを調べて、好きなものがあれば見ていました。」

日本語を勉強しようと思ったきっかけは、いつも見ているアニメを字幕なしで見たいと思ったこと。しかし、日本語学科のある高校に進学したいと母親に話すと、怪訝な顔をされたそうだ。「母は、私に物理学や数学など、世間の役に立つことを勉強してほしいと考えていたのです。」しかし、マリウォンさんが「日本語の先生になりたい」と目標を定めると、やりたいことを認め、応援してくれるようになった。「好きなこと、実現したいことに向かって学ぶことは、まったく苦になりません。」

初めて出会った日本人は、日本語パートナーズ

そんなマリウォンさんが、初めて日本人と出会ったのは高校生2年生の頃。NPが、マリウォンさんの通う学校に来たのだ。

「当時、私は日本語が全然上手ではありませんでしたし、日本人と話したこともなかったので、嬉しい反面、とても緊張しました。」

初めてNPが学校に来た日、クラスの生徒が一人ずつ自己紹介していった。しかし、そのときの彼女は、「はじめまして。私はナッターポーンと申します」と言うだけで精一杯だったという。

生身の日本人から、リアルな学びを得た

以来、NPが入った授業が行われるようになったが、その授業はタイ人の先生だけが教える日本語の授業とはまったく異なるものだったという。従来の授業では、先生が教科書を読んで、生徒がそれを真似して、ひとり一文ずつ発音するという形がとられていた。また読解の授業は、ひとつの日本語の物語を読んで、意味を理解するといった内容だった。

しかし、NPとの授業では、日本について書かれたテキストなどを読んで、その内容や意味について、NPに質問することができたという。例えば「日本人はどうして箸を使うのか」といった、日本人にしか分からないことを質問して、日本文化を理解しながら、日本語を学ぶことができるようになったのだ。

プロヘクターで文化紹介するマリウォンさんの写真
日本の地方の様々な食べ物や名所を学んだNPの文化紹介

また、タイ人にとって日本語の「す」と「つ」の発音は区別が難しいが、マリウォンさんはNPの口元を真似しながら練習することで、違いが分かり、正しく発音できるようになったという。

「当時、私の学校に来ていたNPは、とても親切で、分からないことがあると彼女にたくさん質問しました。会話はもちろん日本語で、頑張って話しました。NPは、私の日本語に間違いがあったら、その都度直してくれました。疑問に思ったことをすぐに聞くことができ、もっと話したいと思わせてくれる存在がいることが心強かったので、すごく良かったです。」

生身の日本人が寄り添うことで、自ら積極的に日本語で話し、日本について学びを深める機会を得られたことが、マリウォンさんの日本語学習の意欲の向上につながった。

タイと日本の文化を紹介し合う

NPとの交流は、授業中に限らず、休み時間や休日にも及んだ。マリウォンさんは日本の観光地や食べ物に興味があり、休み時間などに時間を見つけては、NPの出身地や、地元にある歴史的な場所、名物について、好奇心旺盛に質問した。

「特に興味深かったのはラーメン屋の話です。日本のラーメンが食べたくて、日本に行ってみたい気持ちが強くなりました。」

NPが、授業で日本文化を紹介することもあり、おにぎりを作ったり、折り紙で箸袋を作ったりと、さまざまな体験をすることができた。マリウォンさんにとっては、すべてが初めてのことで、新鮮な気持ちで楽しんだそうだ。

反対に、マリウォンさんたち生徒がNPにタイの文化を教える場面もあったという。

「NPと一緒に船に乗って、タイヌードルを食べに行ったことは大切な思い出です。美味しいと言って食べてくれました。NPは運河を移動する路線ボートに乗るのが初めてだったそうで、驚いていました。」

タイ語を勉強する先生の姿に、親近感を覚える

NPと過ごす日々のなかでマリウォンさんは、次第に日本人に親しみを抱くようになった。

「NPと出会ってから『日本人って優しいな』と思うようになりました。たくさんの質問をしても、質問が分かりにくくても、丁寧にわかるまで説明してくれました。自分たちの覚えたての日本語を理解しようとしてくれる姿勢や、自分たちの質問に丁寧に向き合ってくれる優しさにふれ、嬉しかったです。」

また、NPが、タイ語を勉強していたことにも感動した。

「NPは、毎日タイ語の文字を書く練習をしていたので、タイに興味を持ってくれているんだなと分かりました。彼女が一生懸命にタイ語を発音する様子は『可愛い』とさえ思いました。NPのタイ語がだんだん上手になって、私たちが話すことを少しずつ理解してくれるようになったので、嬉しくなりました。」

マリウォンさんの話から浮かび上がってくるのは、生徒たちとともに笑い、驚き、挑戦する、“等身大の日本人”の姿だ。NP自身もまた派遣先であるタイについて学び、タイでの生活に溶け込もうと努力していた。

大学では日本語を専攻、日本留学も果たす

マリウォンさんは高校卒業後、日本語学科があるタイの大学に進学し、夢の実現に向けて着実に進んでいる。交換留学生として、2020年4月から2021年1月まで山口大学に留学した。

日本での生活には困難もあった。例えば、買い物に行くとき、単語やイントネーションが教科書と異なることもあり、ナチュラルなスピードの日本語は最初はなかなか聞き取れず、授業での学びとの違いに、戸惑いを感じたこともあった。
「実際暮らしてみると、『おいでませ』『ぴえん』といった教科書に載ってない方言や流行語にも出会います。日常会話や暮らしの中で何か困ったら日本人の友達に聞きます。山口で出会った日本人も、NPと同様に、優しい方たちばかりでした。」

瓦そばの写真
留学先の山口で堪能した郷土料理「瓦そば」

高校生の時に、授業だけでなく日常生活でもNPと交流した経験を通して、日本人に対して良い印象を持つことができ、日本に留学した際も躊躇わずに日本人の友達との関係を築き、困ったときは自然に頼ることができるようになったそうだ。日本で暮らしながら「生きた日本語」を学ぶ機会を持ったことは、タイで日本語の先生になるというマリウォンさんの夢の実現に向けて大きな一歩になったに違いない。

日本語を学ぶ上で大切なのは「勇気を持つこと」

今ではすっかり日本語に慣れたというマリウォンさん。アニメも字幕なしで、ほとんど理解できるそうだ。最近は、好きな歌手やYouTubeの動画を見ながら幅広い日本語を学んでいる。

そんなマリウォンさんが、日本語を学ぶ上で最も重視していたのは、「勇気を持つこと」である。

「最初は私も、日本語を話して失敗するのが、恥ずかしい、怖いと思っていました。でもそれでは、練習できないです。話すきっかけを与えてくれたのは、NPでした。NPと話したくて、勇気をもって日本語で声をかけたのです。私の日本語がNPに通じて、優しく応えてくれたことで、自信がつきました。」

NPとの出会いや留学経験を通じて、たくさん話し、失敗しながら身につけていくことが語学習得の近道だと、身をもって学んだようだ。

日本語パートナーズに伝えたいこと

マリウォンさんにとって、初めて出会った日本人がNPだった。日本人と直接交流することによって日本語が上達するだけではなく、日本人の優しさや日本の文化にふれて、「もっと学びたい、もっと話したい」という気持ちが生まれ、学びの原動力となっていったのである。さらに、「自分が話した言葉が通じた」という経験は自信につながり、夢に向かって積極的になる原動力となった。

「今、関わったNPともう一度出会うことができたら、感謝の気持ちを伝えたいです。NPのおかげで、日本語が上手になり、夢だった日本への留学を実現できたことを報告したいですね。」

文:木薮 愛

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