ベトナム9期 西舘 真弓さんへのインタビュー
NPに応募したきっかけ
私は長い間、中学校の国語教師を務めていましたが、50歳になったとき、退職後に挑戦してみたいこととして5つの条件を考えました。
1. 人と人をつなぐ仕事、できれば日本の人と海外の人をつなぐ仕事がしたい
2. 日本語教育に携わりたい
3. 学校教育・教育現場での経験を生かしたい
4. 人を助けたり、役に立ったりする仕事に就きたい
5. 子どもに関わる仕事がしたい
「海外」「日本語教師」というワードでウェブページを検索し、NPのページにたどり着きました。
そこに書かれていた趣旨や活動内容、求める人材・適性等を読んで、「自分がやりたいのはこれだ!」と感じました。
その後、派遣された方の動画を見たり、NP経験者とのオンライン交流会でお話を聞いたりする中で、その想いがさらに強くなりました。
ベトナムを志望したのは、私の住む地域には、以前インドシナ難民定住施設があったため、私が勤務していた学校にベトナム人の生徒が多くいたことがきっかけです。私の出会ったべトナム人の生徒たちは勤勉で向上心が高く、芸術的な才能が優れており、ベトナムという国に興味関心がありました。さらに、一度旅行でベトナムのダナン、ホイアン、ホーチミンを訪れたことがあり、そのときに感じたベトナムのエネルギーやホイアンのなんだか昔懐かしい感じ、人の温かさが忘れられず、ベトナムのNPを目指すようになりました。
派遣先校での一番の思い出
私が派遣された時期はコロナ禍があけて2年半ぶりのNPということで、CPや生徒たちはNPが来ることを大歓迎してくれました。
CPはちょうど私の娘と同じ年頃だったので、初めて会ったときから話が弾み、「あなたは私のべトナムの娘ね!」「まゆみ先生は日本のお母さんです!」と意気投合しました。
CPからアオザイの生地をいただき、CPのお気に入りの洋服屋さんへも連れて行ってもらい、仕立てあがったアオザイは私にとってお気に入りの一着となりました。もちろんそのアオザイを着て授業をすることもありました。
そして、私の誕生日には「お母さん誕生日おめでとう!」という言葉の書かれたケーキや花束をプレゼントしてもらい、一緒に誕生日を祝いました。

このように恵まれた環境だったからこそ、思い出はたくさんあり、一つに絞るのはなかなか難しいので特に印象に残っている思い出を三つご紹介します。
1. 水引飾りの授業
「水引飾り」はコロナ禍で急遽帰国が決まったベトナム6期のNPが準備していた文化紹介です。CPだけでは生徒に教えることができなかったので、ぜひ文化紹介で取り上げてほしいと言われました。
授業では、最初にスライドを使って「水引飾り」に込められた日本人の思いや使い方等について説明し、その後「水引飾り」の作成にうつりました。まず「淡路結び」を作り、それを発展させて「梅結び」を作ります。水引を3本選ぶところから生徒たちはもう大興奮。どの色にしようか目は真剣そのものです。作り方のプリントと動画も活用しながら、私も前で結び方を見せます。

最初は初めて出合った水引の扱いにとまどっていた生徒たちですが、どんどん作業に集中。手先の器用な生徒が困っている生徒に教え、互いに助け合って作業を進めます。淡路結びができたところで、それを指輪のようにして「結婚してください!」と寸劇を楽しむ生徒も(縁を結ぶという水引の意味をちゃんと分かっているのです)。梅結びができたら、最後に裏をボンドで留めて余った水引を切り、好きな紐をつけて完成です。

出来上がった「梅結び」を嬉しそうに制服のネクタイにつけて見せてくれる男子生徒や、互いの「梅結び」を持ち寄って花束のようにして撮影する女子生徒。「髪飾りにしたいのですが……」と相談に来る生徒等、みんな満足そう。とても素敵な「梅結び」が完成しました。CP先生も自分が作った「梅結び」を携帯電話につけて満面の笑顔です。最後にみんなで自慢の作品を見せながら記念写真を撮りました。

その日の夜、たくさんの生徒たちが、作品を作る様子や出来上がった作品、友達と撮った記念写真等をSNSにアップしていました。「楽しい一日でした。教えてくれてありがとう!」と私にも日本語でメッセージが……。ベトナム6期の先輩の想いもしっかりつなぐことができた「水引飾り」の授業はとても心に残っています。
2. 修了証書授与
CPからのリクエストで12年生(日本の高校3年生)へ日本語学習の修了証書授与を行いました。私が文面とデザインを考え、CPが生徒の名前を挿入してくれて、二人で印刷屋さんへ行って、紙の厚さやインクの色合い等も確かめながら完成させました。
当日は、日本の卒業証書授与式での作法を教え、私とCPで生徒一人ひとりに手渡ししました。生徒たちは、真剣な表情で証書を受け取り、その後は満面の笑顔です。証書を手にした生徒一人ひとりと記念撮影もして、思い出深い一日となりました。

3. 生徒たちの挑戦をバックアップ
派遣先校の生徒たちの挑戦をバックアップできたことも思い出深いです。
日本語スピーチコンテストに出場する生徒の原稿へのアドバイス、そしてスピーチの練習。学校ではもちろんですが、放課後にも何度も何度も練習しました。
体調を崩しながらも練習を重ねる生徒の姿に感動。原稿もスピーチもどんどん進化して上手になっていき、教えがいがありました。
また、日本の大学の奨学生試験を受ける生徒の自己アピール書にもアドバイスをしました。ベトナム人の生徒たちの志の高さに私自身も刺激を受けました。その後2名が奨学生試験に見事合格し、2024年3月に来日を果たしました!
NPの経験を通して学んだこと
NPの経験を通して学んだことは大きく分けて四つあります。
一つ目は、ベトナムという国、そして派遣先であるフエの人たちのことを深く知ることができたことです。
私自身がベトナムの大ファンになり、これからも関わりを持っていきたい、恩返しをしていきたいと思いました。
派遣先校のCPや生徒たちとの触れ合いはもちろんですが、滞在先であったホテルの従業員、タクシーの運転手さん、ベトナム語の先生、美容院の方等、さまざまな人に支えられて、10か月間過ごすことができました。
また、休日にはベトナムの各地を訪問し、各地の文化や自然、ベトナムの世界遺産を堪能しました。旅先でもさまざまな人に助けられたり関わったりして、ベトナム人の優しさ・温かさを知る機会となり、友人も増えました。
これからもベトナムやベトナム人との絆を大切にしていきたいと思っています。今も多くのベトナム人とFacebook等でつながっており、メールのやり取りもしています。日本で暮らすベトナム人を支援し、多くの日本人(特に若い世代)にも、ベトナムについて伝えていきたいと考えています。
二つ目は、日本や日本文化について、自分自身が深く学ぶ機会となりました。
ベトナムで日本を紹介するためには、なるべく日本や日本文化について自分の引き出しを多く持つことが必要で、なにか一つ自分の得意(大好き)なものを持っていると良いと思いました。
帰国してからも、日本文化についての自分の興味関心が広がり、積極的に学ぼうとしています。
海外で日本のファンを増やすためには、自分自身も日本や日本文化のファンになることが大切だと思います。
三つ目は、同じ想いを持つ人たちとのネットワークづくりができました。
ベトナム9期の仲間はもちろんですが、派遣前研修が一緒だった台湾・フィリピン・ラオスへ派遣された仲間たち、帰国後に出会った派遣国・地域、期を超えてつながるNP経験者のコミュニティ等でさまざまな情報交換や学ぶことができ、自分の世界が広がりました。
NP経験者のコミュニティでは、同じ地域に住むNP経験者とも知り合うことができ、将来的に地域で外国につながる子どもを支援する団体を立ち上げたいと思っている私にとって大変心強く感じました。
四つ目は、日本で暮らす海外につながる方たちの気持ちや困りごとを自分ごととして感じられるようになりました。
これら四つがNP経験を通して特に学んだことだと思います。
帰国後、現在の職業・活動に活かされていること
日本に帰ってきてからも、せっかくできたベトナムでの縁を生かしていきたいと思って過ごしています。
今は一つにしぼるのではなく、さまざまなことを並行して取り組みながら、人の輪を広げたり自分の経験を広げたりしています。
現在私は、派遣先のフエで知り合った日本語学校や日本スタイルの幼稚園を経営している方に頼まれて、週2回ベトナム人の小学生にオンラインで日本語を教えています。
その子どもたちは親の仕事の関係で日本に住んでいたのですが、現在はベトナムに帰国しているため、日本語を忘れてほしくないという親の願いがあるようです。
1時間子どもたちを飽きさせずに授業をするのは毎回大変ですが、早口言葉やビンゴ、あっち向いてホイ等のゲームも取り入れながら授業しています。
ほかにも私が住んでいる地域の国際化協会からの依頼で、週1回2時間、中学1年生のベトナム人の男子生徒へ日本語支援をしています。勉強の合間にベトナムの話をしたり、少しだけベトナム語を使ってみたりと私にとっても楽しい時間です。
子どもたちだけでなく、ボランティア団体の一員として、大人の学習者にも日本語を教えています。
自分自身が海外で生活したことにより、心細さや言葉が通じないことによる不安や困りごとを共有できるので、学習者により丁寧に対応するようになりました。授業のはじめに日本の習慣や行事等について情報提供し、学習者の国ではどうか聞いているのですが、国によって考え方の違いが発見できて楽しいです。
また、ベトナム人や外国人に対しての活動だけでなく、日本の子どもたちへベトナムでの経験を伝えることもしています。
退職前に勤務していた中学校で、卒業前の中学3年生にNPとしての経験をお話する機会をもらいました。寒い体育館で90分もの長時間の講演でしたが、生徒たちは真剣な表情で聞いてくれてとてもうれしかったです。
「自分の知らなかった世界を知ることができた」「自分の価値観が覆された」「他の国から日本がどのように見えるのか気になった」「自分も海外へ行ってみたくなった」「海外のことに興味がなかったけれど、自分も海外のことについて学んでみたいと思った」「ベトナムという国や人々に興味を持ったし行ってみたいと思った」等、生徒の生の声が聞けて私にとっても貴重な時間となりました。
現在、中学校の国語の非常勤講師としても勤務しているのですが、自己紹介のときにベトナムの話をしたところ、あるクラスでは授業後に「先生、私のお母さんはベトナム人なんだよ!」と話しかけてくれる生徒もいました。
私がこれからもベトナムの話をすることで、日本の子どもたちがどんな風に受け止めてくれるか、今から楽しみです。