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後小路雅弘――『Art Through Our Eyes』上映会アフタートーク:FUN! FUN! ASIAN CINEMA@サンシャワーにて

Interview / Asia Hundreds

シンガポールにおける文化芸術

古市:ありがとうございます。それでは、会場からご質問を受けたいと思います。

観客:シンガポールの美術館にはいろんな国の作家の作品が集まっていると思いますが、所蔵の傾向と、何でこの映画が企画されたのか、また今後も続くものなのかご存じでしたら知りたいです。

後小路:シンガポール国立美術館は、シンガポールの美術を扱うだけでなく、東南アジア全体の文化芸術のハブみたいなものを目指しています。この映画では、東南アジアのいま活躍している映画監督を選んで、所蔵品も東南アジア全域にわたるので、その中から自由に選んでもらったのだと思います。ラデン・サレーが重なることはありましたが、広く東南アジアに焦点をあてたということですね。

上映会アフタートークで語る後小路さんの写真

古市:日本では、福岡アジア美術館がアジア美術の収集を多くされていて、東南アジアのものも何百点も収蔵されていますが、シンガポール国立美術館と福岡アジア美術館で所蔵傾向の違いはありますか?

後小路:シンガポール国立美術館は、どちらかというと近代美術が中心ですね。福岡アジア美術館は時間をかけて展覧会をしながら作品購入をしましたが、今は経済力の差が相当ありますので、もっぱらシンガポールの一人勝ちです。内容的には、例えば、かつてのシンガポールの木版画運動のように政府批判のものなどは福岡が購入して、そこから注目されました。いまはシンガポールにもあると思いますが、反体制的なものは外国だから集めやすかったということはあるかと思います。

古市:そうですね、経済力の話がありましたが、シンガポールでは1996年にまず、シンガポール美術館ができて、シンガポールを中心に東南アジアの美術を収集し始めましたが、それから20年後にシンガポール国立美術館が出来て、近代美術も視野に入れて、ラデン・サレーからフアン・ルナ(Juan Luna)まで、東南アジアの近代作家の作品を収集するようになりました。
もう一つ補足すると、アジアの美術を収集している美術館としては、オーストラリアのブリスベンにあるクイーンズランド州立美術館|現代美術館(Queensland Art Gallery | Gallery of Modern Art[QAGOMA])が1993年からアジア・パシフィック・現代美術トリエナーレという国際展を継続して進めながらコレクションしており、90年代以降の現代美術については良い作品がたくさんあります。 それからシンガポールに関連した取り組みでは、先日上映された『セブンレターズ』*1 という映画を観ましたが、こちらもシンガポールが映画を通じて自国を表象している感じがして面白いと思いました。

*1 『セブンレターズ(7 Letters)』(2015年/シンガポール、マレーシア)。建国50周年を記念し、シンガポールを代表する監督7人が制作したショートフィルムのオムニバス映画。失恋やアイデンティティ、世代間の家族の絆、希薄になる隣人との関係、さらに伝統芸能を通して、シンガポールに生きる人々の物語が展開する。

上映会アフタートークで質問する古市氏の写真

後小路:どちらの作品も建国50周年ということで作られたものですから、シンガポールを表象しているというか、そういう事情が起因していると思います。チュア・ミアティの《ポータブル・シネマ》もそうですが、シンガポール人の回顧趣味というか、50年を振り返ってかつての時代を懐かしむという傾向は、『セブンレターズ』にも感じました。50年経ち、どんどん国が創り変えられていき、建物などもどんどん変わって街が変わっていく中で、過去を懐かしむ風潮があるのでしょう。

古市:「サンシャワー」展をご覧になった方で、シンガポールの作家の作品を観られた方がいらっしゃると思いますが、例えば、ミン・ウォン(Ming Wong)、ホー・ツーニェン(Ho Tzu Nyen)、ホー・ルイアン(Ho Rui An)など、シンガポールおよびその周辺の歴史なり物語をかなり上手く使って作品を作っている作家が多く、しかもそれがすごくハイレベルのクォリティーではないかと思います。

後小路:私は特に、建国50周年をモチーフにして、「シンガポールとマレーシアが分かれなくて良かったね」というフィクショナルな作品(ブー・ユンファン作《ハッピー&フリー》(2013年))がすごく皮肉が利いていて、「分かれなかったからこんなに幸せだ」という歌が頭から離れません。そういう作品と《ポータブル・シネマ》などの作品を見比べると面白いのかなと思います。

古市:ありがとうございます。これで後小路先生のレクチャーを終わらせていただきたいと思います。

参考情報

『Art Through Our Eyes』予告編


モデレーター:古市保子(ふるいち・やすこ)
国際交流基金において1990年より現在まで、アジアと日本の美術交流事業を手がける。アジア美術の日本への紹介として「美術前線北上中――東南アジアのニューアート」(1992)、「アジアのモダニズム」(1995)、日本現代美術のアジアへの紹介として「美麗新世界」展(2007)、「KITA!!」展(2008)、「Twist and Shout」展(2009)、「Re:Quest」展(2013)や、また、アジアのキュレーターとの協働美術事業として「アンダー・コンストラクション」展(2002―2003)をはじめ、「アジアのキュビスム」展(2005―2006)、「他人の時間」展(2015–2016)など。さらに、アジアの若手キュレーターの人材育成とネットワーク構築を目的に、「Media/Art Kitchen」展(2013)、「Run & Learn」(2014―2015)、「Condition Report」(2015―2017)など。