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コロナ禍での食文化体験

日本語パートナーズ(NP)の活動の一つに、文化紹介がある。その名の通り、日本文化を現地の生徒に紹介するのだ。中でも食文化の分野は生徒たちも興味津々だ。だって、食べることが嫌いな人なんてそうそういない。生きることは、食べることだ。何を、どんなふうに食べるのかを知ることは、その国の文化を知る上でも重要な位置を占めるだろう。

しかし、コロナ禍で私たちの価値観は一転した。

同じ食卓を囲むこと。大声で笑ったり、好きなだけおしゃべりしたり、時には歌ったり踊ったりしながら食べること。「おひとつどうぞ」と自分の皿の料理を人に勧めること。そういったことのすべてが、「よくないこと」になった。こういうとき「正しさ」ってかえって厄介だなあと思う。新型コロナウイルス感染症の拡大という未曽有の事態に対応するために新しく生まれた絶対的な「正しさ」を前にすると、私たちは声をあげることすらままならない。

当然、学校でもそうだ。食文化紹介のために調理実習をすることに対して、眉をひそめる人だっているだろう。現在NPは、学校の許可を取ったうえでの食文化体験活動は認められている。私が派遣されている学校でも、感染症対策を徹底したうえで、希望者のみ対面授業が再開した2月頭に「たこ焼き」と「おにぎり」を作ることにした。「せっかく日本から先生が来てくれたんですから、今しかできないことをしましょう」との現地の先生の言葉が決め手となった。

派遣先での生徒の写真
たこ焼きを作る高校1年生
派遣先での生徒の写真2
できあがったおいしそうなたこ焼き

教室に集まった生徒たちは、久しぶりに学校に来られた嬉しさもあいまって笑いどおしだった。オンラインで授業に参加する生徒は、そんな友達の姿をパソコンごしに見守った。「わたしも食べたい!」「学校へ行きたい!」素直なメッセージに胸が痛くなる。私だって、叶うなら直接みんなと会ってたこ焼きを、おにぎりを作りたかった。けれど、コロナウイルスが広がる中で、大切な我が子を学校へ行かせるのが怖いというご家族の気持ちだってわかる。

まんまるのたこ焼きをひとのみにした生徒が「あつい!!」と顔いっぱいで笑う。それを見た他の生徒たちからも弾けるような笑い声があがる。入学して以来オンライン授業が続いていたため、初対面で強ばっていた中学1年生たちの表情も、慣れないたこ焼きづくりに四苦八苦しながら次第に笑顔になっていく。こういう体験は、実際に同じ場所を共有して行わないとできないことだ。自分で握るからこそ味わえる、コンビニおにぎりにはないあたたかさ。それを友達と先生と、「おいしい」と言い合いながら食べる時間。何ものにも代えがたいものだと思う。

コロナウイルスから生徒を守りたい。一方で、一緒に日本の食べ物を作って食べて、笑い合いたい。そんなジレンマを抱えつつ、現地の先生も我々NPも文化紹介の方法を模索している。

派遣先での生徒の写真3
おにぎりを作る中学1年生
Writer
タイ パトゥムターニー
吉村 愛子さん

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