「町のどこへ行っても、生徒たちから声をかけられた!」(堀部さん)
―派遣される前の研修などで、現地の状況を学んでから出発されたとうかがいました。現地に行ってみて、想定外だったことはありますか?
堀部:私の派遣先は、お店をやっている家の子どもたちがとても多かったんです。だから放課後は生徒たちが店番をしていて、「先生、果物買ってー」とか言ってくるんですよ。買う必要がない時にはお店を避けるようにしていましたが、半径1キロ圏内に生徒が何百人も住んでいます。どこへ行っても「こんにちはー」「先生、買ってー」と声をかけられました(笑)。これは想定外でしたね。
掛川:学校で、各自が食べたい時にご飯を食べる姿には最初びっくりしました! タイでは授業と授業の合間に休み時間がないだけでなく、ランチタイムもなくて……。生徒たちは各自、自分の受ける授業のない時間に、食べたい時にカフェテリアへ行って食べていました。朝ごはんも、家で食べずに屋台で買った物を学校で食べていました。学校では、決められた時間に食事をするものだと思っていたので、自由だなと感じました。生徒たちはすごく真面目で、時間の管理が各自の判断に任されていてもきちんと授業に出るんですね。それにも、驚きました。
岡田:私はいい意味でタイのイメージが変わりました。物がない、買えないというイメージだったのですが、私が派遣されたのは市内だったので、何でも買える状況でした。
日野:私もいい意味でイメージが変わりました。派遣前研修の時、「約束や時間が守られない」という話を聞いたのですが、そういうことはほとんどなかったです。
岡田:私の派遣先では、生徒は律義でしたけれど大人はおおらかでしたね。そのせいで伝達ミスが起きることがあったので、何事も自分から積極的に確認するようになりました。
―同じタイでも、都市部に派遣されている方、農村部に派遣されている方がいらっしゃいますが、現地では、日本人の存在はどのように受け入れられたのでしょうか? また、不便だったことや心細かったことはありましたか?
日野:両親が派遣先を訪れてくれた時、タクシーがつかまらなくて「空港まで迎えに行けない!」と困ったのですが、よく行くカフェのお姉さんが「私が車で空港まで送ってあげるから」と言ってくれて助かりました。ちなみに、そのお姉さんの車で行くのかと思いきやそうではなく、「ちょっと警察に行って車を借りてくるね!」と言って、わーっと本当に警察まで走っていって車を借りてきて送ってくれたんですよ(笑)。確かに不便もありましたがどれも小さいことで、何とかなりましたね。
堀部:派遣された村では、私が初めての日本人だったので大歓迎されました。毎日近所の子どもたちが遊びにきました。だから心細いとか寂しいということはなかったです。朝「先生、先生」って声に起こされて、横を見たらベッドの横に幼稚園くらいの子どもが4人いた、なんてこともありましたよ(笑)
「こんなに感動のある生活が、まだ私を待っていたんだなと」(掛川さん)
―派遣前と後で、何か内面的な変化はありましたか?
掛川:私は日本で長い間、主に成人したヨーロッパ系の外国人に日本語を教えてきました。だからアジアの高校生に教えるという経験は新鮮でしたね。生徒たちはみんな礼儀正しく、あたたかく、なつっこい。毎日ものすごいエネルギーをもらって、長い間のサラリーマン生活で凝り固まった部分を「すとーん」と落とせた気がします。6カ月間、ほんとに毎日笑って暮らして、「ああ、こんなに感動のある生活がまだ私に待っていたんだ」という喜びは、すごく大きいものがありました。
日野:私は、生命力が付きましたね。これまで温室育ちだったので、派遣前はその点が心配だったのです。行ってみたらいろいろな人が支えてくださるし、「私ってこんなに順応性があるんだ」という発見もしました。
「社会にどのように貢献できるかを、考え直すきっかけになった」(岡田さん)
―日本語パートナーズでの体験は、今後のご自身にどう影響していくと思いますか?
堀部:私は「仕事は嫌なことも我慢していかなければいけないもの」みたいな考え方をしていたのですが、「仕事をこんなに楽しむこともできるんだ」と考えが変わりました。タイの方は、すごく楽しんで働いているんですね。バスの乗務員さんは音楽をかけて踊りながら切符を切っているし、学校の先生もすごく楽しそうで。私はこれから大学院で研究をする予定ですが、これまでは「論文を書いて成果を出さなければ」と思っていたのですが、今は「長い目で見て、本当に好きなテーマととことん向き合っていきたい」と思うようになりました。視野が広くなったと感じます。
岡田:日本語パートナーズの経験は私の人生を変えました。私は高校生の時から日本語教師になりたいと思ってきたのですが、日本語パートナーズに参加して、いい意味で考え方がすごく揺らいだんです。経験豊かな先輩方と派遣前研修を1カ月一緒に受けて、いろいろな社会経験をうかがい、とても影響を受けました。派遣されて実際に海外に住んで、予想と違うこともあれこれ体験しました。その結果、「自分の人生計画を、もう一度、もっと広く考えてみよう」と思うようになったのです。この活動を通じて、もう少し視野を広げて、本当に自分がしたいことや、自分の特技を活かして社会にどのように貢献できるかを、考え直すきっかけになりました。
―それでは最後に、未来の日本語パートナーズに向けて先輩からメッセージをお願いします。
「この活動を、仕事に悩んでいる人にもおすすめしたい」(堀部さん)
堀部:日本を飛び出せば全く違う世界があることを、知ってほしいと思います。私には日本語教育の経験がなかったんですけど、それでも、大学時代「よさこい」をやっていたことや、趣味の映画を活かして日本語パートナーズの活動ができました。若い世代では「自分が社会に貢献できるのか」と自信がない人もいると思いますが、趣味レベルのことでも仕事に結びつけ、誰かのためになることができる。それが日本語パートナーズの魅力です。周りには「仕事が嫌だ」って言いながら長時間働かざるを得ないという人もいますが、日本語パートナーズの活動中、私は帰宅してからもずっと授業の準備をしていました。結果的に長時間働いていたのですが、嫌だとか苦痛を感じることなく、自然にやっていました。働かされるのと進んでやるのとは全く違う。働き方を見直すという意味で、日本語パートナーズは仕事に悩んでいる人にもおすすめしたいです。
「1年でこんなに視野が広がり、こんな経験ができる機会は他にありません」(岡田さん)
岡田:私は同世代の人に、「1年くらいいいじゃないか、今しかない」と言いたいですね。「この半年、1年がつぶれたら勉強が、就職活動が」と思って応募できない大学生もいると思いますが、1年でこんなに視野が広がり、こんな経験ができる機会は他にありません。将来の職業を選ぶにあたっても選択肢が広がると思います。
「外国を知りたいと思っている人にはとてもいい」(掛川さん)
掛川:日本にいると、「こうでなければならない」「この次はこうしなくてはならない」と、なんとなく既成概念に縛られがちですが、海外に住んでその地域の人たちや異文化に触れ、すべてを体験しながら学ぶことができる日本語パートナーズのプログラムは、外国を知りたいと思っている人にはとてもいい。そして逆に日本のことがよくわかるようになります。相乗効果で得るものが大きいです。
「タイの学校に行ってみてわかったことは、『自分には思った以上に価値がある』ということ」(日野さん)
日野:私の年代、30代は働き盛りで子育て世代なので日本語パートナーズに参加しづらいと感じる人もいるかもしれません。でも、私はタイに行って、「自分には思った以上に価値がある」と思えたことは何物にも代えがたい経験でした。派遣先では、これまで生きてきた30年間の蓄積をぜんぶ使える。社会人を数年やっていた経験も利用できますし、日本語教師の資格やキャリアがない人でも日本語パートナーズのプログラムなら現地の先生と協力して教えられます。現地の先生たちと同世代であることが多いので、協力し、ライバルとして高めあったりして、やっていけるのはこの年代の強みです。ちょっとでもピンときた人は応募してみてほしいと思います。