「Bordering Practice」と「Imaginary Line」――交錯するアジアのエレクトロニックミュージックシーン

Review / Asia Hundreds

アジア・ハンドレッズのロゴ
ASIA HUNDREDS(アジア・ハンドレッズ)」は、国際交流基金アジアセンターの文化事業に参画するアーティストなどのプロフェッショナルを、インタビューや講演会を通して紹介するシリーズです。 文化・芸術のキーパーソンたちのことばを日英両言語で発信し、アジアの「いま」をアーカイブすることで、アジア域内における文化交流の更なる活性化を目指しています。

プロジェクトの進展:「Bordering Practice」から「Imaginary Line」へ

廣田ふみ(以下、廣田):2016年にスタートしたBordering PracticeからImaginary Lineに至る一連のプロジェクトでは、アジアのエレクトロニックミュージックに焦点を当て、次世代間の交流と音楽シーンの形成を目的に活動を行ってきました。インターネット以降の世代によるインターネットを活用したプロダクションの方法と、彼らのオープンな精神によって、新しい文化交流の方法を模索することができたように感じています。これまでに東南アジアと日本においてライブイベントを実施したり、国際協働制作を行ったりしてきたわけですが、プロジェクトの継続に伴い、参加するアーティストやレーベル、各都市のシーンがさまざまにつながり、今では多様な関係性が生まれています。今日は、4年間のプロジェクトを振り返りながら、私たちが何をやってきたか、どのようなプロセスを経てきたのかについて、最後となるライブ「Imaginary Line」までの活動を紹介します。

トークイベントの写真1
Imaginary Lineトークイベントの様子

tomad:このプロジェクトは、2016年から2018年まではBordering Practice、2019年にはImaginary Lineというタイトルで活動しました。「Bordering Practice」には、境界(Border)を意図的に引く、というコンセプトが含まれています。それぞれのコミュニティの特異性や共通性、個人のアイデンティティを見出すためにも、境界をまずは知る、ということを試みたわけです。そこから、個人同士の関係性、未来に向けた進行方向に対し線を引く、そして自らのシーンを創りだすための想定的・仮想的な線を引くという意図で、「Imaginary Line(想定線)」へと発展したのです。

プロジェクト相関図[PDF:400KB]

プロジェクトのプロセスとしては、「調査」「イベント」「協働制作」の3つがあります。まずは、調査する都市を絞り込み、インターネットで気になるアーティストやイベントを調べ尽くします。そして、実際にアーティストに連絡をとり現地を訪ね、会ってみるわけです。毎回、1週間で平均2都市を回りました。2016年はフィリピンのマニラとタイ・バンコク、2017年にはインドネシアのジョグジャカルタとジャカルタ、2018年にはベトナムのホーチミンとハノイで調査を行いました。

廣田ふみ:2016年のマニラの調査では、tomadさんがレーベルを通じて交流していたミュージシャン、Moon Mask*1 さんに現地のシーンを紹介してもらいました。彼の紹介で、それ以降、プロジェクトの中心メンバーとなるsimilarobjectsさんに出会うことができました。2017年のインドネシアでの調査にはsimilarobjectsさんにも同行をお願いしました。というのも、日本のメンバーだけで調査を行うのは、言語やコミュニケーション、異なる文化背景への理解という点で限界があると感じたからです。この調査で、ジャカルタにあるDouble Deer*2 を訪ね、tomadさん、similarobjectsさんといっしょにRezkyさんに出会うことができました。

*1 2016年に開催したトークイベント「Liquid Asian Pop Scene」とライブショーケース「Neo Asian Pop Showcaseに出演。

*2 インドネシア・ジャカルタに本拠地を置く音楽レーベル。KimoKal、Mantra Vuturaはじめ多数のアーティストが所属。

トークイベント写真2
Imaginary Lineトークイベントの様子。左からsimilarobjects、Rezky、tomad

tomad:2018年のベトナム調査では、楽曲を通じて交流のあったハノイを拠点に活動するアーティストTenkitsuneに依頼し、現地の音楽シーンの情報をもらいました。ホーチミンでは、今回東京に来てくれたAstronormousの兄弟にも出会ったわけですが、彼らのような若い世代がすごくアクティブに活動していることがわかったのは衝撃的でした。また、ハノイの映像制作グループAntiAntiArtがやっているショップや、ホーチミンのThe Labというクリエイティブスタジオも訪ねました。AntiAntiArtはダンサーのチームから派生した映像制作グループで、ストリートカルチャーを意識したローカルな雰囲気がありました。The Labは広告案件などを行うクリエイティブエージェンシーで、ユースカルチャーの視点を持ちながらもクオリティの高い仕事を多く手掛けています。彼らの拠点を実際に訪れることで、ハノイとホーチミンの都市文化の違いも肌で感じられて興味深かったです。

ライブイベント参加者の集合写真
ホーチミンで開催したライブイベント「Cloud Room ―アジアのポップ・エレクトロニック・サウンド―」は、The Labのメンバーとともに企画制作チームを編成した。
撮影:Jun Yokoyama

「調査」から「イベント」、そして「協働制作」へ

tomad:こうした調査を経て、次は実際にイベントへと展開しました。各都市で出会ったアーティストやクリエイターとともに一緒にイベントを開催したり、日本でのライブに呼んだりして関係性をつくっていったんです。

イベントクロニクル[PDF:1M]

まずは2017年に、マニラでsimilarobjectsとともにライブイベント「x-pol: Buwan Buwan × Maltine」をオーガナイズしました。僕にとってもこれが東南アジアでの初のイベントになりました。このときから、このプロジェクトのスターティングメンバ―ともいえるサウンドアーティストのTORIENAやPARKGOLFも参加してくれています。

イベントの写真
「x-pol: Buwan Buwan × Maltine」の様子
撮影:岩屋民穂(GraphersRock)

2018年には、「Bordering Practice」というタイトルで、渋谷WWW Xでライブイベント*3 を行いました。このプロジェクトでは最大規模となるイベントだったんですが、日本からtofubeatsとPARKGOLF、フィリピンからsimilarobjects、そしてインドネシアからはDouble DeerのKimoKalを招へいしました。ほかにも、台湾からMeuko! Meuko!、マニラのMoon Maskも所属するアメリカのレーベルZOOM LENSからMeishi Smileも参加しました。ここでは、アジアの都市やレーベルを起点に活動しているアーティストを招いたわけですが、アジアの音楽シーンを欧米に向けて発信するプレイヤーとしてカナダのRyan Hemsworthも来てくれました。

*3 MeCA | Media Culture in Asia: A Transnational Platform(2018年2月)

Bordering Practiceの写真1
Bordering Practiceの写真2
東京でのライブイベント「Bordering Practice」でのtofubeats(上)とMeishi Smile(下)のパフォーマンスの様子
撮影:Jun Yokoyama

こんなふうに調査とイベントを繰り返していくことで、イベント自体もどんどんバージョンアップしていきました。東京でのBordering Practiceのライブの翌年に、ジャカルタ、ホーチミン、ハノイの各都市を巡るツアーを行いました。そしてこのツアーの際に、ジャカルタで楽曲の滞在制作を行ったのです。Double Deerのスタジオで、Rezkyにディレクションしてもらい、PARKGOLFとsimilarobjects、そしてDouble DeerからMantra Vuturaが参加し、3組による協働制作を行いました。4日間の集中的な滞在でしたが、3つの楽曲を制作することができました。「調査」「イベント」を繰り返すことを通じ「協働制作」へと到達し、その一連の成果を楽曲としてリリースすることができたのです。

*4 ジャカルタでの協働制作に関しては下記鼎談記事もご参照ください。
tomad×similarobjects×Rezky Prathama Nugraha――交錯するアジアのエレクトロニックミュージックシーン

Bordering Practice楽曲紹介サイト