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経験者に聞く

学生時代から揺らぐことがなかった日本語教育への熱意 - マレーシア3期 坂下咲椰さんインタビュー

マレーシア
坂下 咲椰さん

現地の先生に提案し、日本語を楽しく学べるアクティビティを実践

――授業の進め方と坂下さんの役割について教えてください。

坂下:最初に「言えるかな?」プロジェクトをしました。年月日と曜日、天気を生徒に日本語で発表してもらうんです。それから授業に入りますが、私は主に板書と教科書の音読を担当していました。文法の説明はアスマハニ先生がマレーシア語でします。私はその間、生徒がしっかりノートを取っているか見て回り、必要ならばサポートしていました。

――「言えるかな?」プロジェクトは誰の発案ですか?

坂下:生徒に発言してもらう機会を設けたくて、私が考えました。最初は全員が日本語で話すことを恥ずかしがって、なかなか発言したがらなかったんです。それでも私は、生徒に毎日「今日はお願いできる?」と問いかけて。たとえ間違えても正しく言えるようになればいいということをわかってほしかったので続けていたら、1か月後には生徒のほうから「私が発表します」と言ってくれるようになりました。

派遣先の国民中学校で発表する生徒の写真
「言えるかな?」プロジェクトで発表する女子生徒

――先生は坂下さんの提案を受け入れることに積極的でしたか?

坂下:アスマハニ先生は日本語パートナーズがいる間にいろいろなことに取り組みたいと考えていたようです。「アイデアがあればどんどん出してください」と言ってくださったので、自分で考えたゲームを提案して、授業に取り入れてもらいました。

――たとえばどんなゲームですか? 生徒に好評だったものを教えてください。

坂下:「ひらがなカルタ」は人気がありましたね。授業でひらがなを教えても、生徒は最初、覚える気があまりなくて。彼らが楽しく学べる方法はないかと考えて、カルタを手作りしたんです。みんな札を取りたいから、一生懸命ひらがなを覚えるようになりました。

ゲームではありませんが、「シールラリー」も始めました。各生徒のカードを作り、日本語で何か話すと、日本から買っていったご褒美シールをカードに貼ってあげるんです。みんなシールがほしくてたまらないから積極的に発言してくれて、宿題もテストも頑張って。シールの効果はすごかったですよ(笑)。

ひらがなカルタで盛り上がる様子の写真
ひらがなカルタは1年生から3年生まで全学年で盛り上がった

日本語を学ぶ意欲が持続するよう生徒のモチベーションをもっと上げたかった

――生徒の意欲を引き出すためにいろいろ工夫したようですね。

坂下:日本語を勉強することに意欲的になっていく生徒の姿を見ると嬉しいですから。みんな素直で、面白ければ「好き」、難しそうなら「嫌い」と反応がはっきりしています。私も「こうすると気に入ってくれるかな?」と毎日考えるのが楽しみでした。

日本語パートナーズ『経験者に聞く』のインタビューに答える坂下咲椰さんの写真3

――日本という国や日本文化について伝える機会はありましたか?

坂下:授業の時間内に文化紹介の枠を設けてもらい、1年生から5年生まで自由に参加できる日本語クラブも2週間に1度あったので、折り紙や書道、てるてる坊主、福笑いなどを紹介することができました。

日本語クラブに所属している生徒たちに特に好評だったのは折り紙です。鶴を折ってみせるとみんな楽しんで折り始めたので、広島の歴史に触れながら広島平和記念公園の「原爆の子の像」について説明し、折り鶴が平和のシンボルであることを伝えました。

すると生徒から「私たちも広島に折り鶴を捧げたい」と提案があったんです。それで「千羽鶴プロジェクト」を始めることにしました。2か月かけてみんなでコツコツ折って、千羽鶴を平和記念公園に郵送したところ、原爆の子の像に捧げた際の写真をメールで送ってくださって。生徒たちはとても感動していましたね。

このプロジェクトも、彼らの日本語学習への取り組み方を変えるきっかけの一つになったかもしれません。生徒の間から「自分たちは負の歴史ではなく明るい歴史を築いていこう」といった声が聞かれたことも、私には嬉しい成果でした。

広島平和記念公園で飾られる、派遣先の生徒たちと作った千羽鶴の写真
生徒たちが折った千羽鶴は平和記念公園に飾られた

――生徒たちの心に残る、意味のある試みではないかと思います。

坂下:もう一つ、生徒にとっていい機会になったと感じているのが、在マレーシア日本国大使館と国際交流基金などが共催する「日本語フェスティバル」に参加したことです。日本語の授業を受けている61人が、書道とマンガ、鯉のぼり作りのコンテストにチャレンジしました。優勝はできませんでしたが、生徒たちは参加することが楽しかったみたいです。他校が参加したソーラン節のコンテストを見て、「かっこいい。来年は絶対に出たい」って(笑)。日本語を勉強し、日本文化を体験している仲間が他の学校にもいると認識できたことは、生徒にとってモチベーションアップになった気がします。

――日本語や日本文化に対する生徒たちの関心が持続していくことを願いたいですね。

坂下:生徒の日本語に対する興味を引き出してモチベーションを上げることが、日本語パートナーズの役割の一つじゃないかと私は感じています。自分はどうか。十分にそれができたとは言えません。日本語の授業がない4年生以降も、そして大学に進んでからも日本語の勉強を続けたい、そう思う生徒が出てくるくらいまで彼らのモチベーションを上げたかったです。

ただ、残せたものはあります。私が帰国した後も生徒たちが日本語に触れられる場があればと思い、アスマハニ先生に提案して図書館に日本語の本のブースを作ってもらったんです。日本語を学んだ生徒の活動記録になるような冊子もアスマハニ先生と協力して作りました。二人で撮り溜めていた写真に、生徒が書いた日本語の文章とアスマハニ先生の英語訳を添えて。私は生徒の日本語を手直ししました。完成までに3か月くらいかかったと思います。とても遣り甲斐のある作業でした。

日本語ブースで本を見せる生徒の写真
図書室に設けられた日本語ブースは生徒に大人気。日本の地理や行事などを本からも学ぶことができる
生徒の写真やメモが記された活動記録冊子の写真
アスマハニ先生と協力して作成した生徒の活動記録の冊子
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